プロフィール

株式会社NTTドコモ
イノベーション統括部 企業連携担当
家族ツナグPROJECT プロジェクトリーダー
横澤 尚一

横澤 尚一

横澤氏にインタビューした帰り道、
横澤氏の「ここくま」への想いに心を打たれていた。
一緒に取材したパートナーとそのことをずっと話しながら
私達は駅までの道を辿った。

横澤氏は商品開発の際、誰の為に作っているのかということを常に心におき、
ユーザーの意見を聞いて商品の改良を行うスタンスをとっている。
それはユーザーが満足している姿を大切にしているからだ。

ロボット開発のきっかけ

横澤氏が開発をするきっかけとなったのは
長野県の支店で働いている頃のとある出来事だった。
横澤氏が働いていた長野支店の地域に
65歳以上の高齢者の割合が56%を占める人口1,600名の村があった。
一般的に携帯電話などの機器を高齢者が使用する際、
使い方が難しかったり、覚えられず使用する事自体を嫌がる人が多くを占める。

そんな中、横澤氏は同僚3名と機械に抵抗を持っている
高齢者に何か出来ないかと自治体へ高齢者向けの企画を提案した。
それは高齢者が抵抗なく、テレビ電話やメールや脳トレなどを行えるタブレットであった。

ここでの横澤氏の経験が「ここくま」に息を吹き込むきっかけをつくった。

高齢者が何に困っているのか意見を大切にする為、横澤氏は
ヒアリングを高齢者1人1人と行った。
そこからどう改善すべきなのかに焦点を置き、改良を重ねた。

「◯◯さんがこんな意見を言っていたよ。」
「それだったら、これを改良すればいいね!」といったように
誰がどんなことを思っているかをチームで話すようにしていた。

直接、おじいちゃん、おばあちゃんの顔を見ながら、
歓喜の声や指摘をしっかりとヒアリングしていた為、
自然と開発者たち全員が使命感を受け、
ユーザーの気持ちを尊重して改良を重ねていった。

それらは、現在も高齢者に喜んでもらっており、
全世帯の導入に向けて今も活動が進んでいる。

しかし横澤氏は、何度もヒアリングを行ううちに、
「1つの製品だけでは全員を幸せにする事ができないのだな」
と感じていた。

経験から生まれた新しい息吹

長野支店から本社に戻った横澤氏にチャンスがやってきた。
ロボット開発の企画の話である。
長野での実体験を踏まえて、「新しいものは苦手だけど、
家で1人でいることは寂しいなぁ。」と語っていた高齢者のことを思い出した。
「この企画、行けるんじゃないかな… 。
愛着の持てるロボットなら、機械が苦手な人も癒したり優しい気持ちに出来るのでは。」と
横澤氏は考えていた。
それが「ここくま」の始まりであった。

開発を行うにあたり協力してもらうメンバーを1社ずつ探し、
横澤氏が考える「ロボット」の動きを実現できる企業を見つけていった。
それは自分たちのこだわりたい部分の構想をカタチに出来る協力企業。
もちろん、特化した技術力を持った企業が集まったとはいえ、
開発を始めて幾つもの課題にぶち当たった。

それはどんなことか。
協力している数社の開発手法や生産環境が異なっていたこと。
組み合わせる際に上手くバトンを渡せずに苦労したこと。
と、横澤氏は語っていた。
開発が進むにつれ課題点が幾つも出てきたが、
協力企業のチームメンバーとも何度も話し合うことで、
1つずつ課題を乗り越えていった。
また同時に、チームでの喜びや一体感が強まり、
「ここくま」開発チームという枠組みがまとまったという。

お客様が手に取ってから生まれる課題

横澤氏は商品を公に発表した後も「さあ、販売だ!」とはしなかった。
お客様が「ここくま」に初めて触れる際の気持ちを大切にする為、
「ここくま」の企画参加を一般向けに公募したのだ。

それは3ヶ月間の企画参加で、
一般の方に自宅で「ここくま」を使用してもらい、
困ったことや感じたことを2週間に1回集まって報告してもらったのだ。
参加してもらった一般の方同士でも意見交換をしてもらい、
それを2週間おきに改良する手法でさらにブラッシュアップを行った。
ここでのユーザーを巻き込んだブラッシュアップにより、
販売2ヶ月経過した後でも設定が分からないといった
指摘を受けたことがないという。
そんな素晴らしい結果を横澤氏は残している。

「ここくま」の購入者は、ロボットを触ったことがない人がほとんどであり、
40~60代の息子娘世代が多く、「70~80代の親とのコミュニケーションのツール」
という目的で購入されることが多いという。
しかし購入後、1週間経過すると、
コミュニケーションツールとして渡した「ここくま」は、
高齢者たちにとって癒しという大切な存在になっているという。
つまり自分の家族や子供のようなパートナーだ。

「ここくま」は介護施設でも導入されている。
モニター調査を行ったところ、2週間の使用後、
手放したくないという意見をもらうことが多いという。
これもまさにユーザーが「ここくま」を
家族というパートナーとして認識していることを証明している。

横澤氏は、タブレットの企画開発の際や、
介護施設でのモニター調査でも
お客様から出た新しい意見を必ず次の課題とし、
その課題を乗り越える為の努力を行っている。
それはユーザーの使い易さや気持ちを
第一に考えているからこそ出来ることである。

「ここくま」をクマにしたのも、
お客様の声に耳を傾けて出てきた意見から決まった。
ロボットが人間に危害を加えず、
逆にロボットが家族の絆を深めていく文化を
創っていきたいと考える横澤氏は、
初めてロボットに触れる人々が抵抗無く、
ロボットを受け入れられるようにしたいと考え、
大きさは赤ちゃんのサイズにし、材質は見た目も手触りも柔らかいぬいぐるみにした。

パートナーとしての「ここくま」のこれから

私たちも「ロボット」にすこしずつ触れる機会が増えてきた。
しかし、日本中の人々が抵抗無く「ロボット」を受け入れる日が
いつやってくるかはまだ分からない。
2017年現在、「ロボット」と聞いて一般的に思い浮かべるのは
「機械」のイメージであることが多い。
それは映画や人間の想像から出来たものからきているが、
そんなイメージを「ここくま」は打ち消す役割を果たすだろう。

それはなぜか、横澤氏が展望の一つとしている
「ここくまを通してロボットへの愛着を突き詰める」ということが関係しているからである。
愛らしさ、可愛らしさ、本当に愛すべき存在であるパートナーの1人として
今以上に愛着を突き詰めていきたいと考えている。
そして横澤氏は、もう1つの展望を持っている。
1家に1台ロボットがいることだ。
単に1家に1台ではなく、
お客様が精神面でも金銭面でも抵抗無く「ロボット」を購入出来る時代を
創っていきたいと考えている。

横澤氏の経験、こころざしから生まれた
「ここくま」という絆を作る「ロボット」、
いや「パートナー」がこれからのロボットの概念を変え、
ロボットに対する抵抗の壁を崩していくであろう。

「ここくま」には“こころを届けるくま”“ここにいるよ”という
二つの意味が込められているという
もしかしたら横澤氏が届けたいのは
「ロボット」なのではなく、「こころ」なのかもしれない。

さあ、今日は誰にこころを届けようかな。

■コミュニケーションパートナー ここくま
“こころ”を届けて たくさんの笑顔や、感動や、思い出を作る “くま” ここくま!

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