プロフィール

高岡 尚加(Naoka Takaoka)
ユカイ工学株式会社 デザイナー

東京藝術大学在学中、陶芸作家として活動。
2016年 同大学大学院を卒業後、ユカイ工学株式会社へ入社。
クッション型セラピーロボットQooboの発案、
プロダクトデザインなどを行う。

4月というはじまりの季節から、もうすぐ3ヶ月。
進学や就職を機に、実家を離れて一人暮らしをはじめた方も多いことだろう。
そして、一人で暮らす生活に寂しさを覚える人も多いのではないだろうか。
「疲れて家に帰った時、何かに癒してもらいたい…。」
そんな想いから生まれたのが、
今回取材させていただいたQoobo(クーボ)である。

Qooboが生まれるまで

Qooboはしっぽのついたクッション型のロボットだ。
動物のように、優しく撫でるとふわふわと、
たくさん撫でるとぶんぶんとしっぽを振る、
なんとも愛らしいロボットである。

このQooboを発案したのは、
ユカイ工学株式会社のデザイナーである高岡尚加さん。
高岡さんは、大学時代に陶芸を専攻し、陶器の人形や食器を制作していた。
ある時、ユカイ工学株式会社のiDollという歌に合わせて踊るなど
音声に反応してコミュニケーションを行うロボットの動画を目にする。
そして、その愛らしさに惹かれたことをきっかけに、
ユカイ工学株式会社へと入社した。

Qooboが生まれるまで高岡さんは北海道出身。
北海道の実家では、幼いころから14匹の犬たちと一緒に暮らしてきた。
進学を機に上京し、一人暮らしとなった高岡さん。
両親であれば飛行機に乗って会いに来てくれるが、犬たちはそうはいかない。
実家の犬たちにはなかなか会うことができず、
一人暮らしで犬を飼うこともできない。
そのことに高岡さんは寂しさを感じていた。

そんな時、高岡さんに転機が訪れる。
現在、ユカイ工学株式会社で年に一度行われている
「開発合宿」というイベントである。
それは、4~5人のチームに分かれ、
約2ヶ月前から各チームでロボットを開発し、
合宿当日に発表するというものだ。

その中で開発するロボットのテーマは、
「今まで開発してみたかったけど開発できていないもの」、
「誰かの課題を解決するためのロボット」。

そこで、高岡さんはチーム内で、
一人暮らしの寂しさを癒してくれるようなロボットを提案した。

子供のころから実家では犬たちと一緒に寝ていたこと、
上京してからの一人暮らしでそれができないことに寂しさを感じていたこと、
その寂しさを癒してくれるような存在がいてくれたら…。
そんな高岡さんの想いを聞いて、チームのメンバーからは
「創ってみよう」という声があがった。

これがQooboの生まれるきっかけであった。

Qooboへのこだわり

制作をはじめた当初、
「癒してくれる何かと添い寝がしたい!」という
高岡さんの声から「添い寝デバイス」として創られていたQoobo。

Qooboへのこだわりそのため、最初は人型の抱き枕としっぽ付きのクッションとのセットだったそうだ。
それが次第にしっぽ付きのクッションのみになり、現在のQooboへと至っている。
高岡さんが、そんなQooboを創るうえでこだわったのは、
やはりQooboの魅力とも言えるしっぽの部分だという。

Qooboの制作に携わったエンジニアの方は、動物園を訪れ
様々な動物のしっぽの動きを動画に収め、しっぽの研究をしたとのこと。

また、現在のしっぽの構造に落ち着くまで、
十何種類ものしっぽの試作品を“作って動かして”と作業を繰り返したそうだ。

しっぽに「しなり」をつけるため柔らかい素材で作ってみたり、
複雑な動きが出来るよう関節をつけてみたり…。

何度も試行錯誤を重ねた末に、現在の形に落ち着いたという。

何度も試行錯誤を重ねたうえで現在に至るQooboだが、
制作当初から一切変わっていない部分もある。
それは、丸いクッションに動物のしっぽが生えているというデザインである。

このデザインに関して、試作品を手にとったお客様の中でも、
特に海外の方々からは「なぜ顔が無いのか」という意見もあったそうだ。

しかし、最初から現在まで高岡さんがこのデザインを貫いたのには理由があった。
それは、顔というのは人によって好みが分かれてしまうため、リアリティのある顔だと
「怖い」と言う人がいる。
とは言え、キャラクターのようにデフォルメしすぎると、本物のペットのような感覚が
なくなってしまう。

そこで、顔はつけず、クッションにしっぽをつけたデザインにすることにしたのだ。

「犬が好きな人でも猫が好きな人でもそれ以外の方でも、
自由に想像して使える『入れもの』になってほしい。」

高岡さんのそんな想いが、Qooboのデザインには表れているのだ。

ちなみに、Qooboのしっぽの構造部分は、ユカイ工学株式会社が2016年に発表した
「家族をつなぐコミュニケーションロボット」であるBOCCOの本体の色とお揃いだそう。
高岡さんやQooboの制作に携わったエンジニアの方々の、
自社のロボットに対する愛が感じられるエピソードだ。

このように、Qooboは様々なこだわりを持って創られている。

(BOCCOについては、以前こちらのロボクリで紹介させていただいている。
BOCCOについて知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでいただきたい。)

セラピーロボットとしてのQoobo

Qooboは、高岡さんと同じように
「一人暮らしでペットを飼うことはできないけど、何かに癒してもらいたい」
という思いを抱えた20~30代の一人暮らしの方をターゲットに創られていた。

しかし、次第に「Qooboは心理療法の分野にも活かせるのではないか」という声があがる。
実際に、Qooboを持って高齢者施設を訪ねたことがあるとのこと。

すると、施設で暮らす普段あまり話をしない年配の女性が、
笑顔でQooboを撫でていたという。

さらに、認知症の女性が「昔、猫を2匹飼っていてね…」と
施設の従業員の方も聞いたことがないような話を、
Qooboを撫でながら話してくれたこともあったそうだ。

高岡さんの「何かに癒されたい」という一つの想いからはじまったQoobo。
それが多くの人の共感を呼び、さらには医学療法の分野にまで羽を広げようとしている。

「Qooboは自分が最初に考えていたものとは、少し印象の変わるものになりました。」
と話す高岡さん。

エンジニアの方であったり、試作品を手に取ったお客様であったり、
多くの人がQooboに関わることで、Qooboは少しずつ形を変えながら成長していく。

今後、Qooboはどのように成長していくのだろうか。

Qooboのこれから、高岡さんのこれから

Qooboの購入予約は、すでに公式ホームページからできるようになっている。
そして、Qooboの発送自体は、今年2018年の秋頃に予定されている。

実際に発売するまでに、Qooboが気まぐれに動くなど、
まるで本当に感情を持っているかのような動きをQooboに組み込む予定だそうだ。

また、さらに発売後Qooboをどのようにバージョンアップさせていくかは、
まだ具体的には決まっていないという。

しかし、今後新しい機能を増やしたいと思った時に対応できるよう、
Qooboの体は余裕をもって創られているそうだ。

高岡さんのもとには、一足先にQooboの試作品を手にとったお客様から
「名前を呼んだら反応する機能があったらいいのではないか」
「あたたかくなる機能があったらいいのではないか」
など、様々な声が届いている。

そのような声に耳を傾けながら、今後もQooboを成長させていきたいと
高岡さんは話してくれた。

高岡さん自身のこれからの目標についても話をうかがった。
現在はデザイナーとして活躍されている高岡さんだが、
今後はロボットの内部の設計も自分でできるようになりたいとのこと。

また、Qooboが多くの方に喜んでもらえたことが、とても嬉しかったと
笑顔で話してくださった高岡さん。

「こんなものがほしかった」、「発売されるのを楽しみに待っています」等々、
試作品を手に取ったお客様から多くの言葉を頂いたことで、
人の役に立つものを創ることができたということに幸せを感じたという。

そのため、今後もそのようなものを創っていきたいと高岡さんは話す。

『Qooboはすごく便利なもの、というわけではないのですが、
Qooboがいることで誰かの生活が少し楽しいものになったり、
家族のコミュニケーションのきっかけになって家族が仲良くなったり。
これからも、そういうものを創ることができたらいいなと思っています。』

Qooboを手にしたことで、誰かの生活が少し楽しいものになりますように。
そんな高岡さんのあたたかな思いとともに、これからQooboは
さらに多くの人のもとへ渡っていく。

今後、Qooboがどのように成長していくのか。
また、高岡さんが今後どのようなロボットを創り出していくのか。
同じロボット業界に携わる者として見守っていきたい。

高岡さんから今の子供たちへ

インタビューの中で、現在小学校などの教育現場で
プログラミング教育が進んでいることに高岡さんは触れた。
現在は一部の学校でしか取り入れられていないプログラミング教育だが、
IT人材の不足を受け、2020年度には全国の小学校で必修化されることになっている。

このような現代の社会について挙げ、高岡さんは
「今の子供たちは、なろうと思えば、これから何にでもなることができる。」と話していた。

Qooboをはじめ、これから高岡さんが創りだしていく
「誰かの生活が少し楽しいものになるようなロボット」を、
今の子供たちが手にし、「自分もこんなものが創りたい!」と
ロボット業界への道を進む。

今後、そんな未来もありえるかもしれない。