プロフィール


若井 秀之さん(写真:右)

【経歴】
1976年3月 東京工業大学工学部機械工学科卒業
1976年4月 小松製作所入社 生産技術研究所
1981年3月〜1983年3月 西ドイツベルリン工科大学留学
1986年3月 東京大学大学院工学系研究科 工学博士
1986年11月 生産技術研究所生産システム制御研究室GL
1992年7月 研究本部 中央研究所エレクトロニクス開発研究部GM
1997年7月 研究本部 中央研究所第一研究部副部長
2001年7月 研究本部 中央研究所基礎技術研究部部長
2004年4月 研究本部 技術研究所所長
2013年4月 オーライ技術株式会社 取締役・相談役
2019年4月 方正株式会社 シニアコンサルタント
2021年4月 アンドロボティクス株式会社 R事業部技術部長


渋谷 昂史さん(写真:左)

【経歴】
2018年3月 茨城大学工学部卒業
2018年4月 アンドロボティクス株式会社入社 R事業部エンジニア

コロナ禍と自律航行運搬ロボット『FRUTERA』

非接触の需要が高まる昨今において、配膳の業務をロボットが行うという光景は少しずつではあるが、日常に溶け込もうとしている。

予め記憶した施設の地図情報をもとに走行し、センサーにより障害物や人の回避が可能な自律走行型ロボットの一つがアンドロボティクス株式会社で研究開発をしているフルテラだ。飲食店での配膳業務の実証実験やエレベーターを利用したフロア移動を実現している。



そんなフルテラに携わる、アンドロボティクス株式会社R事業部の若井さんと渋谷さんにお話を伺った。

若井さんと渋谷さんのバックグラウンド

入社4年目の渋谷さんと技術部長である若井さんの年齢は、二倍以上離れている。だが、若井さんは若手の渋谷さんを「フルテラの先生」と表し、渋谷さんは若井さんを「親しみやすい人生の先輩」と表す。読者の皆様も若井さんのご経歴を見て驚かれたかと思うが、実に半世紀以上に及ぶ機械の進化や歴史と共に歩んできたエンジニアだ。

まずは、その二人のエンジニアのバックグラウンドについて迫っていく。

若井さん「ロボットが好きという訳ではなかった。というのも、私が子供の頃はロボットがなかった。ロボットというのではなくて、機械は子供の頃から好きだった。大学受験くらいまで飛行機とかを設計して、ラジコンをずっと触っていた。

学生の頃はマイコンができる前の世界だった。だからエンジンを使って動く飛行機とか自動車とかの機械を、ラジオコントロールで外からコントロールして動かしていくことをやっていた。制御するというのが、ベースにある。

どちらかというと毎日図面を引いていた。今の人は誤解しているかもしれないけど元々私は機械の方をやっていたんです。機械の“械”は制御、つまりコントロールで機械の“機”とはストラクチャー。私は機械っていうのは制御と機構だと思うから、機械そのものもロボットって言って良いと思う。機械は鉄の塊ではなくて、あくまでの制御するものと動かされるものという2つの複合型機械であって、そういうものが好きだった。

今でいうロボットを制御するにはセンシングが必要で、センシングしてそれを判断して動かすという総合システムである。自分で作ったものを自分で動かして、また自動で動かして。無線とかのラジコンは子供の頃に買ったんだけど、自分で制御装置やエンジンを作って。改造できるんですよ。改造してエンジンを制御するためアナログ的な制御やプロペラやスクリューを作る為に流体力学を使っていた。制御は補助ではなくて知能(制御)がメインだった」

若井さん「会社に入ってからロボットに関するものとしては、『センシング』という意味では画像処理。つまり『目』ですね。それは大分やっていた。画像処理で物を認識したりして、指示をして機械を動かしていた。

あの頃は黎明期ですかね。まだ工業用カメラがわずかに出始めた頃で、今はスマホで簡単に写真が撮れるけど、撮れる装置そのものも実は無くて……。

テレビのカメラからの信号を電子回路でデジタル化して取り込む装置を作った。初めはアナログコンピューターを作って使っていたけど、マイコンが出てきたのでマイコンで画像処理して、物を認識したりする事をしばらくやっていたな。

ロボットに対するセンシングの『目』としては日本でもほとんど最初の方じゃないかな。デジタルの取り込み装置がなかったから。実際の工場なんかに使われていたのは小松が最初かもしれない。その技術がハンドリングロボットとしてどんどん使われていった」

若井さん「信号処理としてはいろんな機械とかの状態をセンシングする。機械は電気等で動くから電流とか電界を認識する。今ではAIを使うけど当時はパターン認識で信号のパターンを見つけていっていた。それが今でいう情報処理になるかな。近年における『機械(アクチュエーター)を動かす事』は、『総合機械システムの応用の一つとしてのロボット』というイメージ」

若井さん「俺のイメージでロボットっていうのは、ロボットではなくやっぱり機械。人間の能力を超えるというのがやっぱり非常に面白いよね。あと、人間ができないことをやる。

特に目とかセンシングとかいったけど、今度は工場全体において、物を認識して、運んで、それを機械に入れて、機械を動かすコントロールの情報を与えて、動かして、検査して……全部自動で、コンピューターで判断するロボット工場のようなもの。それが世界でも初のFMS(*補足1)という技術の出た時代だった。それをさらに工場全体の生産設備に使用していくことで、CIM(*補足2)の時代になった。初期のFMSとか(自動生産システム等)は、俺が世界の半分くらいに作ったかもしれない」

(※補足1 )FMSとは:Flexible Manufacturing Systemの略。多品種・小ロット生産に対応した、柔軟な生産システム。
(※補足2) CIMとは:Computer Integrated Manufacturingの略。コンピューターで製造業の活動全般を統合でき、倉庫(物流)の活動を最適化することができる。

若井さん「物を動かすにはシミュレーションという技術が大事。シミュレーションに基づいて制御していく、という考え方。例えば経路をシミュレーションで作った上でロボットを動かしていく。日本ではちょっと遅れている面があったので、ドイツで研究して、シミュレーション、画像処理と学んでいった。ロボットに関連するのはそこら辺の時代が一番多いかな」

若井さん「センシングに関しては、直属でグループを持って作っていて、精密な計測に取り組んでいました。精密な3次元の形を計測していく装置の開発とか」

――フルテラについても若井さんのセンシング技術が盛り込まれているのでしょうか?

「フルテラのセンシングはまだ十分やれていない。画像処理も入っていないし。そこら辺をこれから入れていったら良いかなぁという気がしている」

若井さんはその長い歴史と歩みの記憶を手繰り寄せるように言葉を紡いだ。

渋谷さんに関しては、アンドロボティクス株式会社にWebアプリ開発のエンジニアとして新卒採用された。渋谷さんは若井さんより前――、フルテラに導入当初からソフトウェア開発に携わっている。

渋谷さん「元々、小さい頃からモノ作ったりするのは好きではあったんですけど、画像認識をしたかったから情報系の学科に入って制御の部分を学んできた」

渋谷さん「当初仙台でロボット開発をするつもりだったのですが、結果的に様々な出会いがあったので、東京に来て良かったとは思っています」

ロボットではなく、アクチュエーター

お二人が開発に関わるフルテラについて伺うと、フルテラはロボットではなく、「アクチュエーター」だと話す。

フルテラはそもそもどのように動かすかというソフトウェア開発からの始まりだったという。また、当時は現在よりも狭く、社内にいる研修生も障害物も多い環境でロボットを触り、動かしていたそうだ。そこから比較すると、大いに進歩したと語る。

渋谷さん「(COVID-19の)除菌に関する事は着目されていますが、人が行うと悪影響や感染リスクがあるので、そこはやはりロボットがやるのが向いていると思います」

若井さんが補足してくれた内容によると、除菌ロボット等の最新技術に関しては国からの助成金があることや、自社だけでは補いきれない部分を他社と協力しながら開発していく事で、積極的かつスピード感を持って開発する事ができるようになるとの事だった。

フルテラ

若井さん「自律走行型ロボットは、センサーは入っているけど基本的にある指令を受けて動くというアクチュエーターなんです。フルテラというのは、目的に対してどう動かしていく・動くかというアプリケーションを積んだロボットシステムです。

除菌や新しい用途に対する知性とインターフェイス、仕組みを中に入れ、アクチュエーターを作ったものが除菌ロボットです。頭を作っているんですよ、アンドロボティクス株式会社は。アプリケーションの部分が今の業務ではメイン」

次の用途としての新しいロボットは、除菌ロボットがその一つである。この除菌ロボットに関しては2021年の東京パラリンピックの選手村で活躍し、ニュースでも取り上げられていた。

そんなフルテラであるが、例えるなら、LiDAR SLAMで取り込んでいくというベースの部分は小脳であり、大脳のところは我々で作っている、と若井さんは表現している。更に興味深い例え方を続ける。

若井さん「人間でいうと、小脳は手足の部分。反射的にこう来たらこう行くという。『目』や『耳』をつけていくと、フルテラが進化していく。『声』はもう載せたんだよね。

人間の機能が入っていくと、人間とロボットは近くなるかもしれない。センシングの種類、判断能力等を考えると、まだ進化途中ですかね」

――「目」や「耳」をつける試みを現在行っているのでしょうか?

渋谷さん「はい。画像認識の部分がまだ不十分で、実現できないところもあるので……」

若井さん「例えばそういう配膳ロボット(というアクチュエーター)として作ろうとすると、『おーい、ちょっと来てくれ』という声、手で来るように仕草、『もういいよ。片付けて』と言うと片付けてくれる……等、ロボットとしてのセンシングとしてまだ足りないですね」

エネルギー消費の最適化

除菌ロボットのベースとなるシステムを最適化するという点に今年度は注力していたという。

ロボットは機械の一部だが、機械の制御と区別する要素として、
1. 小さい中に処理する能力を入れる。
2. 1/30秒以内に判断することで人間と同等、もしくは、それ以上の処理能力を持つ。
3. 限られたエネルギーで最適に動かす。
この3つが挙げられ、全てフルテラに取り入れたいと話した。

その中でも、現在のフルテラで課題になっているのは、エネルギー消費についてだ。エネルギーは加速時だけでなく、停止時にも発生する。実用に向けた稼働時間として8時間は必要になる。その為にも、速度を一定にするなどの動きをできるだけ最適かつ滑らかにしていく必要がある。

しかし、他の最適化についても難しい点が多々あるという。

ルートの行先に人間が居たり、複数台のロボットが居たりした際、お互いの進路を塞ぐことなく、スムーズに動けるかという点だ。

最近の自律走行ロボットのエレベーター乗降への取り組みについても話があった。エレベーターに乗っていたお年寄りが、配膳ロボットにエレベーターの出入口を塞がられて降りられなくなってしまった、というニュースもあった。ロボットと人が上手く共存するという事は自律走行ロボット全体での課題である。

この協調動作の研究も現在計画中である。

互いの衝突を回避し、ロボットと人間の安全性を確保するために、車や船などの交通ルールのような規定(ロボット官制インフラ)がロボット業界全体で必要になってくるのではないかと話した。また、実証実験を行う中で「用意されたシナリオでしか動けないので、自由度がない」という点も言及された。

渋谷さんはエレベーターや自動ドアでの課題等も挙げながら「一つ達成すると他にも『こういった動作してほしい』という注文が来るが、言われなくてもできるような安全性と自由度のあるロボットを目指していきたい」と続けた。

エレベーターから出てくるFRUTERA

これからロボット開発をしたい人へ

若井さん「『作っていて楽しい、見ていて綺麗』がベースとなっている。ソフトウェアは1つのストラクチャーが美しく構成され、理にかなっているプログラムは素直に理解できる為、綺麗な形で動くところが想像できる」

建築、人間の動作、自然の造形……様々なものに例えながら、「理にかなっているもの」に美しく感じると若井さんは強調する。

そして、ロボット開発を志す人々に向けての言葉を頂いた。

若井さん「開発していて楽しいという時間が多く欲しい人には、私がここにいるので来てほしい。作っていて非常に苦しいと感じる事も多いんだけどね。結構苦しいけど、できると『やったぞ!』と喜びが出てくる。こういうのが積み重なっていくことがエンジニアにとって良いことだと思っています。そういうような仕事の姿勢を目指してほしい」

渋谷さん「最初はWebアプリ開発者として入社して経験を積んでいたが、一貫してずっと『ロボットはやりたい』と思っていたので、上司とも相談していてロボット開発の事業部に入れてもらった。自分の意思をもって突き進んでいった方がいい。やりたいならやった方がいいと思う。自分の内に秘めているだけだと何も変わらないと思うので、行動するのが大事」





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