プロフィール
一関工業高等専門学校
未来創造工学科機械・知能系 准教授
藤原 康宣(ふじわら やすのり)
◼︎経歴
1996年
岩手大学工学研究科機械工学 第二専攻
2007年
岩手大学工学部工学研究科 生産開発工学専攻
面白さを求める
藤原氏の実家は車の整備工場・自転車屋を経営していた。車や自転車といった乗り物は身近な環境にあり、その影響で昔から工作が好きだったそうだ。
車の整備工場に忍び込んでは工具やリフトに触れたり、自転車を自分1人で解体していたこともある。
また、庭にあった廃車の上を走り回るなどアグレッシブな少年時代だった。
中学校時代には藤原少年はゲーム機の改造を始めた。
シューティングゲームを行っていたが、操作方法にあるボタンを連打して玉を打ち続けるという動作に対して「疲れる」と感じていたそうだ。
そこでコントローラーを開け、ボタンの部分を分解する。
当時安くなっていたICチップと電子回路を組み込み、半田付けを行い、連打するという操作をなくすカスタマイズした。
藤原氏は「今思えば回路もよくわからなかったのに、相当危なかった」と笑いながら話してくれた。
他にも、当時はファミコンの映像が粗かったためビデオ端子を購入し、ファミコン内部に既にあるビデオ信号を増幅させる回路を作り、組み込みを行った。
幼少期から、車や自転車、電子回路に触れていた藤原氏だが、ロボットに関わったのは大学の研究室に所属してからだった。
大学時代に行った研究の中で印象に残っていることは、自分が書いたプログラムで物が動いたということ。
当時はコンピュータを使用して現実世界にある“物”を動かすことが珍しく、どんな動き方をするのか、どんなことになるのか想像がつかなかった。
研究室で簡単な装置をプログラムで動かしデータを取れと当時の先生に言われた時、初めて行う作業であった為おっかなびっくりだった。
そして物を自分が思い描くように動かしデータを取る事ができた時、コンピュータで物が動かすことができたことに「本当に動いた」と衝撃を覚えた瞬間だった。
コンピュータは信号を切り替える・モータのスピードを変えるなど人間の目には見えない方法で『物を制御する』ことはができる。
単に物が出来上がったということだけではなく、その過程にある“物を動かすことの楽しさ”を知り、感動を覚えることができた。
岩手大学を卒業後、一関工業高等専門学校に就職。
藤原氏は自身が面白そうだと思う道を選び、現在の一関工専に行き着いた。
学校であるため自分の好きなことばかりはできないが、ロボットの研究や開発を自由にできる環境にいる為、非常にラッキーだと語っている。
ロボコンの借りはロボコンで返す
藤原氏は現在機械技術部(ロボコン部)の指導を行っている。
年に一回開催される「NHK・全国高等専門学校ロボットコンテスト・東北大会」では毎年好成績を収め、全国へ何度も進出していた。
また、一関高専は「廃炉創造ロボコン*後述」というロボコンにも出場しており、その大会に出場するきっかけとなったのは、「高専ロボコン2015」での出来事だ。
その年の高専ロボコンの課題は輪投げ。
対戦相手よりも早く、9本のポールに先に輪を通すことができたら勝ちといういたってシンプルなルールだ。
競技エリアは二分されており、自陣と敵陣に区切られている。
なお、競技を行っている最中は自陣から出てはならない。
一関高専が開発した輪投げロボット『百式砲』は、輪投げ3発を1度に投げる事ができる。ロボコン東北大会決勝のスタート直前に『百式砲』が暴走するというハプニングに見舞われた。
暴走を止めて整備を行い、対戦準備が整ったため再びスタートしたがすぐに動くことはできなかった。一方対戦相手は今までの成果を発揮するように、一つ一つ着実に輪を決めていく。
ようやく動き出した百式砲は、素早く自陣にあるポールに輪を放り投げ、綺麗に決めた。
そして自陣が終わり、敵陣から中央へ着実に輪投げをこなした。
ハプニングをものともせずに勝利を収めた。
輪を綺麗に決める百式砲は、こちらにまで爽快感をあたえてくれる。
そして一関高専は全国へ出場が決まったのだが、巡り合わせか、全国大会の結果は一回戦敗退、二回戦敗退と振るわない。
満足のいく良いものを作ったからといって必ずしも勝てるわけではないのだ。
藤原氏は悔しさを糧にロボコンの借りはロボコンで返すしかないと奮い立ち、再起を図る。
学年が上がり、高専ロボットコンテストに出場できなくなった学生たちと共に、藤原氏は話が来ていた『廃炉創造ロボコン』の出場を決めたのだ。
多種多様な研究
廃炉創造ロボコンは、廃炉について若い世代に関心を持ってもらうため、ロボットを通じた教育・人材育成が効果的であるとし、東京電力福島第一原発の廃炉を担う人材育成を目指すロボット技術の大会だ。
この大会は2016年から始まり、今年度(2017年現在)で二回目となる。
第一回から出場しないかと他校の教員や運営の方に誘われていたが、その時ILCクライオモジュールの位置調整機構である『アクティブムーバ』の開発にちょうど着手した段階であった為、初年度の参加は見送りとなった。
岩手県の北上山地の地下、100mの盤石な花岡岩に全長30kmにわたる世界最先端の素粒子実験施設『国際リニアコライダー』(通称:ILC)が建設される予定である。
30kmのものを一本通すのではなく、12mくらいのものを何本も繋げて30kmにするため、
一本のつなぎ目部分をうまく位置調整をしなければ、管の中に通る電子ビームが止まってしまい実験にならない。その実験に使用する装置の開発中だった。
ILCアクティブムーバーの他にも橋の交通量調査機器、育児支援ロボット、移動ロボット、遊星歯車を使用した車輪の研究を社会実装指向で行っている。
社会実装とは、実際の社会の問題を解決していこうというものだ。
社会実装の理念として、実際に現場に持ち込んで使用し、使用した人からフィードバックをもらい、すぐに改良していくというものがある。
システムならば、フィードバックの反映がすぐにできるが、ロボットや機械を作るとなると時間がかかるため、なかなか社会実装まで持っていけないことが多い。
その時間を短縮させようと、共通のプラットフォームとして移動ロボットを開発し、それを基盤として様々なものに分岐するようなロボットを開発している段階だ。
社会実装を目的とした研究の行っている藤原氏の研究室だが、その中で遊星歯車を利用した車輪が、廃炉ロボット《C-Rover(ク・ローバ)》の車輪の前身となった。
キーワードはベビーカー?
C-Roverの車輪の研究のキーワードはベビーカーだ。
この研究を始めた当時、藤原氏には娘さんが生まれ、カートやベビーカーを使用することが多かった。
スーパーで買い物をしている時にぶつかるラジカセの配線や、ベビーカーで横断歩道を渡った際にある段差に少しぶつかってしまうだけで車輪は引っかかり止まってしまう。
カートやベビーカーには子供が乗っているため、スムーズに進むことができないかと考え始めた。
そうして開発されたのがC-Roverに使われるクローバ車輪の原型である。
車輪をクローバーのように繋げ合わせ、段差にぶつかったら全体が回転するものを開発。
これにモータを付けて廃炉ロボットの車輪とすれば、ボコボコとした整えられていない場所(不整地。以下“不整地”と表記)の移動も、フラットな状態の整地移動にも対応可能なのでは、とひらめき実行した。
もともと車輪にモータを付けたら面白そうだという考えを藤原氏自身が持っていたものの、電動化をするという考えは廃炉ロボットを開発するまでは持っていなかった。
ベビーカーで段差をうまく走れるようにしたいという想いから生まれた車輪は廃炉ロボットにも使われ、整地不整地共に踏破できる車輪となった。
特殊な歯車、組み合わせが見つからない
移動できる範囲が広ければ広いほど、活用の幅は広がり、行けるフィールドも増えて行く。世の中不整地だらけなので行けるところが多いのには越したことはない。
遊星歯車機構という特殊な歯車を利用することで、一つのユニットで複数の減速比や回転方向の切り替えが可能となった。
歯車の部品には3Dプリンタを使用し、遊星歯車の中心にある一番力のかかる歯車は耐久性の高い既製品を使っている。
車輪に使われている機構である遊星歯車の歯は全て噛み合っており、噛み合うためには、歯の数や軸の径も決まってくる。
しかし、歯車の組み合わせによっては三つの車輪を合わせたときの中心から、一つの車輪の中心までの長さと歯の数が決まってくるため、丁度良い組み合わせを探すのが大変だった。
それを見つけたのが廃炉ロボットを開発したチームの学生だ。
車輪のアイデアは藤原氏が考え、実際に形にするといったことは学生たちが行っている。
《C-Rover(ク・ローバ)》のハード面の設計者である学生に話を伺うと車輪の歯車の組み合わせというのは、簡単に変えられると思っていたとのことだった。
しかし実際は簡単に変えられるはずもなく、変えようとすれば歯車同士が干渉しそうになり、なかなか良い組み合わせが見つからず探すのに苦労したという。
《C-Rover(ク・ローバ)》のシステム面を担当している学生にも話を伺った。
操作性を重視した上で無線を採用したが、やはり無線の難点であるタイムラグが問題となり、最終的に大会まで解決することができなかった。
しかし、映像が見えずとも、傾きによって、登る、降る、横に傾いているなど、姿勢がわかる傾きセンサーを搭載し、モニターが見えなくてもある程度操縦ができるようになっている。
操作性を重視し、そこから生まれた欠点を補うように諦めず考え実践した結果、努力が実り今回の特別賞に輝いた。高専ロボコンから再起を果たすことが出来た。
楽観的に、意志を持って
最後に藤原氏から、これからロボットに携わる人に向けてメッセージを頂いた。
『全てを楽しんでやる』
研究であっても、勉強であっても単純に楽しいという生徒のモチベーションが教育から見た観点では非常に重要だと考える。
ロボットでプログラミングを書いてロボットが動いたとなれば楽しく、ロボットをもっとうまく動かしたいと思うだろう。
“楽しい”というモチベーションを与えることにより、学生は自発的に勉強してくれる。
何事も楽しんでやるということが重要であり、楽しむことを意識して、研究開発や勉強を行なって欲しい。
フランスの哲学者の言葉で「楽観主義は意思で、悲観主義は気分」という言葉がある。
楽しんで行動する、考えるということは何か意思を持って行うこと。
最終的にはなんとかなると思いながら行えば自分自身悲観的にはならず、気分も落ちることなく、楽しく研究できる。
悲観的にこれはダメだ、できない、と考えているのは気分によるものであり、けっして決定事項ではない。ネガティブなモチベーションよりも、ポジティブなモチベーションで行動し、研究やロボットのことなどを考えていた方が楽しさが増す。
悲観的な気分にならず、楽観的な意思を持って楽しむことを意識しながら行なって欲しい。
人は焦燥や不安で悲観的になることはあると思うが、そういう時こそどうにかなるだろうと考え、できるという意思を持って楽観的に行動することが重要だと藤原氏は教えてくれた。