【インフラ&ロボット】ロボットが当たり前にいる世界を目指す

株式会社karakuri products
代表取締役 / エンジニア 松村 礼央 (MATSUMURA Reo)
博士(工学)(PhD.Eng.)

経歴
奈良工業高等専門学校 専攻科に在学中、
ヴィストン株式会社にインターンとして
ホビーロボットの研究開発に従事。
その後大阪大学、株式会社 国際電気通信基礎技術研究にて
コミュニケーションロボットに関する研究に携わる。
卒業後、メーカ勤務を経て独立。
2016年末、株式会社 karakuri productsを設立。
現在、同社代表取締役、東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員。

 

                                          *(C)士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会*

 

ハリウッド映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」。
“義体”と呼ばれるサイボーグ技術が普及した未来に焦点をあてた
SFミステリ作品として記憶に新しいが、その原作である「攻殻機動隊」をご存知だろうか。
1989年に刊行され、世界中のクリエイターの映像表現に影響を与え、
その影響は映像にとどまらず実際の研究者にも今なお影響を与えている。

攻殻機動隊では、その影響をうけたクリエイターによる様々なメディア展開も進んだ。
その一つに今も根強い人気を誇る神山健治 監督による
TVシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE CPMPLEX」(2002~2006)がある。
そこに自身で自律的に思考する戦車「タチコマ」というキャラクタが登場するのだが、
それが今回の記事の本題でもある。

このタチコマを実際に作り、
社会に導入する-そんなビジョンを持つロボット開発者 松村 礼央氏がいると知り、
筆者は早速連絡をとった。本記事ではそのインタビュー内容をお送りしたい。

ロボットのインフラを作りたい

松村氏が理想とするロボットの世界。
それは人の生活環境における不便を様々な形態で
適切なロボットが活躍することで補助し、共存する。そんな世界だ。

しかし、現状そうではない。
この原因として、ロボットを受け入れるための社会的なインフラの整備が整っていない、
と松村氏は語る。
インフラがない状態で動作するロボットは、
我々が砂漠の上でスマホもGPSも地図も持たずに目的地への道のりを探すようなものだ、と。

コンシューマ向けに家庭内のロボットを作る企業は多く、
そこにはたしかに夢がある。
しかし、松村氏によれば、家庭内が一番厄介な環境であり、
導入に順番がつけるとすれば後回しにされるだろう、という。
それは何故か-、これもインフラの維持管理を考えるとわかりやすい、と氏は続ける。

「車」は道路、道交法、そして社会における認知度の高さも含め、
物理的・倫理的な面でインフラの整備が進んでいる。
車は買ったその日に乗って帰宅でき、ルート案内で用いる地図は国内の主要なほとんどの場所で既知である。
では、果たしてこの膨大なシステムは誰が管理しているのだろうか。
それは国であり、その原資は税金という形でその一部を国民総体で負担・貢献している。
我々の“当たり前”の生活は、先人の多くの知恵をベースにして
我々国民が総体として社会に参加することで“インフラ”という形で存在しているのである。

話を戻すと、では家では誰がこのインフラを維持・管理するのだろうか?
現状では世帯主個人の裁量で整えることになるだろう。
だが問題は「ロボットが家庭内で何を解決できれば導入に値するのか」
「その解決にどのようなインフラが必要なのか」がわからないことだろう。
前者と後者は「鶏と卵」のような循環問題であり、試行錯誤によるしか方法はない。
にもかかわらず、そこにかかるコストが個人負担にしては膨大となる点も大きな要因だろう。
このような困難さを含む家庭内よりも先に、
より大きい事業体が別フィールドでその「鶏と卵」を試行錯誤して
インフラの基礎を用意することが肝要ではないか、そう氏は考えている。

 

ロボット製作を始めるきっかけ

松村氏は奈良工業高等専門学校でロボット製作のキッカケに巡り合った。
NHKロボコンに没頭する学生生活。
ロボコン引退後は当時黎明期であった
ホビーサイズの二足歩行ロボットによる競技会「ロボワン」に熱中した。
ロボット製作に関する情報を専門に扱った雑誌「ロボコンマガジン」も読み漁っていたという。
そのロボコンマガジンで当時、ロボワンで好成績を残した
前田 武志氏(ヴイストン株式会社 取締役)のインタビュー記事に出会うことになる。

その記事をキッカケに、氏は前田氏のロボット製作に対する姿勢や価値観に魅力を感じ、
そんな前田氏の会社で一緒にロボット製作に関わり、
ロボットの面白さをもっと感じたいと考えるようになっていた。
高専の授業の一環でインターンを行う必要が生まれたのは、ちょうどその頃である。
なんて良いタイミングなのだろう、そう思った氏は、ヴイストン社へのインターンを自身で申し込んだ。

松村氏のインターンの課題はヴイストン社内にあった3Dプリンタや
CNCなどの工作機械を自由に使って「何かを作る」というものだった。
そこで考えたのが大ファンだったロボットクリエイター 高橋 智隆氏の代表作「クロイノ」だった。
「何かを作る」という課題で、クロイノを課題として選び、
挑戦したことがその後の大きなチャンスを掴むキッカケとなる。
それが当時進行していたとあるプロジェクトが高橋氏のクロイノを原型にした
ホビーロボットを量産するというもの。
しかし高橋氏はロボットを手作りで洗練された一品を制作するスタイルだったため、
量産には向かない。そこにリバースエンジニアリングで図面を起こす松村氏が現れた、ということだ。
実は、このロボットは「鉄人28号」であり、
映画とのタイアップを契機に一般販売も始まった。
インターンを発端に量産品の設計に携わる機会に恵まれたということだ。
ここでの成果から、学業の一方でヴイストン社での研究開発を行う生活が始まり、
ヴイストン社の案件として高橋氏と一緒に仕事をこなした、という。

学業とヴイストン社での研究開発という二足のわらじの生活は4年に及んだ。
その間、高専専攻科、大阪大学の大学院に進学していた。
その後、博士課程に進学した氏は、
株式会社 国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)に籍を移し、
コミュニケーションロボットの研究開発に従事することとなる。
博士課程修了後、上京した氏はメーカ勤務を経て独立。
現在の株式会社 karakuri productsを起業し次のステップに向かって日々邁進している。

 

タチコマを製作しようと思ったきっかけ

先に述べたとおりkarakuri products設立前、氏はATRに所属していた。
所属チーム全体でのミッションの一つが
「人とロボットのコミュニケーションとロボットの導入のためのインフラ」の研究である。
この「インフラの導入」にキャラクターコンテンツを利用するという温めていたアイデアを実行に移した。
このキャラクターコンテンツとして選んだのが「タチコマ」だった。
当然、氏が攻殻機動隊の大ファンであるというのは大きな一因であるが、
それ以上に大きかったのは10年前に、当時新作のプロモーション用に
現在よりも小型なタチコマを公式として作った実績があったから、と氏は語る。

 

夢だけではインフラは成り立たない

様々なコミュニケーションロボットが世間で活躍するようになり、
一般のロボットへの興味は高まってきている。
しかし一方で、一般の方々はお金を支払ってまでコミュニケーションロボットに何を求めるのだろうか。

そもそもタスクとしてコミュニケーションが何故求められているのか。
私はロボットに対するインフラの未整備から、
生活環境でのロボットによる物理作業の難易度が
極めて高いことに起因すると考えます…と氏は語り、こう続けた。

これも「鶏と卵」問題です。ロボットを活用してみたいタスクは山ほど転がっているが、
どれも難易度が高すぎる。ここでの「高い」はタスクの割にコストが見合わない、という意味です。
大抵の場合、環境そのものを設計し直したほうが(技術的に)合理的という話になってしまう。
でもそうなると我々の生活環境そのものを変えることになる。
つまり、タスクを機械(ロボット)で処理をする際の(技術的な)合理性だけを追求すると
工場のような環境に人間が身を置けば良い訳です。でもそれは嫌ですよね。当然です。
なので、その折衷案を探ることとなる。
ただ、その際に解くべきタスクに合理的でない点が生まれるでしょう。
そこを解決できるロボットが開発できれば社会に普及できる可能性があります。

ただ今の議論はあくまで「技術的な合理性」を考慮した結果であって、
経済的なそれに関しては考えていません。
結局、技術的合理性のあるインフラを備えた環境を実現するために必要なコストと、
それを維持管理するコストを誰が払うのか、そしてそこまでして達成したロボットによって
処理するタスクによって得られたコストがそれに見合うのか、
これらすべてのバランスを見ない限り根本的には解決しません。

解決の一つの方向性は、物理タスクを避けずにコストを度外視すること。
社会への導入にかかるコストがどれほど高くとも夢を追いかけるという方向です。
これには巨額の投資が必要となるので誰もが挑戦できるわけではありせん。
もう一つの方向性としてあるのが、
コミュニケーションという心理的な側面を併せ持つタスクを選ぶ方向です。
こちらの場合は、コミュニケーションが必ずしも物理タスクだけを指すわけでなくなるので、
物理タスクに要するインフラ整備の要件を緩める事ができます。
このような理由からコミュニケーションをタスクとするロボットが増えているのでしょう、
そう氏は現状を分析した。

では、コミュニケーションで人は何に価値を感じて対価を払うのだろうか。
この質問に氏は、自身の仮説としては…と前置きし、対価を払う対象はロボットと人との「物語」だという。
ここでの「物語」とは何なのだろうか。掘り下げて聞いてみると、氏はこう語った。
たとえば、アイドルは外見とその背景を知ることによりその人となりを知り、
興味を持てば「推し」としてライブにいったり、そのグッズを買ったりする。
相手に対する事前情報からそれに基づいてコミュニケーションを図り、
新たに情報を得て、相手についての情報を更新してゆく。
この一連の連綿とした流れが「物語」だと氏は指摘する。
この「物語」の付加価値が高ければ対価が発生する訳だ。
なるほど、こう考えると「タチコマ」の版権をまず獲得し、利用しよう、という氏の戦略は理解しやすい。
人が「物語」を対価として欲するなら、その対価の期待値が高い既存の「物語」、
つまりは「攻殻機動隊」の活用を提案することは至極合理的である。

そして、この「既存の物語」を再生する要素の中で導入コストに対する対価が
より良く見積もることができる要素として「外見」があると氏は続ける。
キャラクタの外見をロボットが備えることは「既存の物語」を共有する対話の相手に、
そうでない場合と比較して大きな意味が生まれます。
これは複雑な制御以前の問題なので、まずここをクリアして損はないと思います。
たとえば、高橋智隆氏のデザインのロボットを買う人は
「高橋氏が製作したから」
「高橋氏のデザインだから」
購買するキッカケの一要因となるのであって、そうでなければ購買の意味は大きく損なわれるわけです。

この観点で考えるとコミュニケーションそのものを対価とする
芸能や接客業などの業種も参考にできる、と氏は語る。

 

                                           *(C)士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会*

 

芸能や接客業との共通点と参考になる点とは!?

共通点や参考にできる点もある、とはということか。
たとえば、芸能人の握手会に参加するとする。
この時、重要なのはこの「芸能人」が誰でも良い訳ではない、ということだ。
この点が非常に重要で「何を」「どのように」コミュニケーションを取るのか以上に
「誰が」が支配的ではないか。
この事実にコミュニケーションロボットの開発者は意識を向けるべきで、
対価を支払う価値があるコミュニケーションを
ロボットが提供できているかを真剣に考えて作ることが重要だ、と氏は語る。

いや、そこまでしてコミュニケーションに対価を求めなくても、という声もあるかもしれない。
ただ、この点について松村氏は明確に次のように否定した。
先に述べたように、国や国民が総体としてインフラを維持管理するのならまだしも
民間や個人に委ねているのが現状だ。
継続的に利益が生まれない限り、生活環境でのインフラの整備とロボットの知能化は一向に進まないだろう。
ロボットとのコミュニケーションを通してお金の流れが作れるかどうかで、
コミュニケーションロボットが普及するか決まる、そう松村氏は考えている。

 

キャラクターコンテンツによるテーマパーク化によるロボットの普及

松村氏が考える、キャラクターコンテンツをコミュニケーションロボットのインフラが整備された世界。
それを端的に表しているのはディズニーランドやUSJなどのテーマパークである。

コミュニケーションロボットがテーマパークのマスコットだとしよう。
来園者はマスコットに会いに来るわけだが、マスコットに会えない時間は様々な園内のコンテンツを楽しんだり、
食事をしたり、アトラクションを楽しんだり、様々な仕掛けに対して付加価値を感じ、お金を使用していく。
さらにテーマパークに向かう電車や宿泊施設も周辺に整えられており、
テーマパークを中心にしてお金の流れ、消費する仕組みが整っている。

キャラクターコンテンツを中心にお金が流れ、
ロボットのためのインフラをコンテンツの消費者全体でインフラを支える世界。
松村氏は、ロボットの社会への導入にはこのような仕組みが必要であり、
その上でロボットを組み込んでいかなければならない。そう考えているのだ。

 

             *(C)士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会*

ロボットのためのバリアフリー

松村氏は会社を設立し、自らが目指すロボットを作り上げるために、現在も製作を続けている。
氏の次の計画は何なのか、そこを掘り下げて伺ったが、その回答は意外にも「店舗の商品開発」だという。

昨年末に渋谷、大阪でおこなった実証実験では、
攻殻機動隊 S.A.C.のキャラクタ「タチコマ」を模したロボットによる接客で
約2.3倍の売上を達成できたという。
実験ではスマホアプリとの連携がポイントだった。
スマホアプリ「バーチャルエージェント・タチコマ」で、
まずユーザは自分だけの「タチコマ」を育てる。
育てる過程で、タチコマのボイスや関連するアイテムを
攻殻機動隊S.A.C.に関するコンテンツを受け取ることができ、
カスタマイズしていくことで自分だけの「タチコマ」を手に入れることができる。
これを持って店舗にいくと店舗にある実機のロボット「タチコマ」に、
自分の育てたパラメータを反映したタチコマが乗り移る。
自分が育てたパラメータに沿った振舞いをするタチコマによる接客をユーザは楽しめる、という寸法だ。

ユーザにとって大切な「自分の育てたタチコマ」が接客してくれる「誰か」となる。
その仕掛けをもって、接客をすることで売上を伸ばす。
この伸びた売上がロボットの維持管理に活用される、と氏は話す。

ただし自身の仮説に基づくこの仕組には大きな欠点があった、と氏は続ける。
それは接客によって販売する商品が消費されないため、
新しい商品を無限に投入しつづけないといけない点だと氏は語る。
消費されない、とはどういうことだろうか。
たとえば、タチコマによる接客で「コップ」をユーザが購入したとする。
では、ユーザはその「コップ」を繰り返しまた購入したりするだろうか、恐らく買わないだろう。
つまり、ロボットによる接客が購入のキッカケを生んでいたとしても、
それが繰り返しの消費を生み出さなければ、
インフラの継続的な維持管理にはつながらない、ということだ。
松村氏は、これを解消するには「消費しやすい商品」の提供。
たとえばカフェのような飲食の提供は一つの解だという。
ユーザが購入した商品をその場で消費できれば先ほどの問題は解消できる。
ただし、そもそもその「消費しやすい商品」がユーザの求めるものでなければならないし、
在庫リスクは飛躍的に上がってしまう。問題はまだまだ山積みだ。

話を聞いていると、なるほどたしかに「店舗の商品開発」である。
そして氏は話をこう続けた。
コミュニケーションロボットで接客する場合、提供する商品、商材自体が継続的に消費を産み、
利益を生み出す仕組みになっていなければなりません。
しかし、何でも良いわけではありません。
仮に人が接客して販売したとしても利幅が小さいような商材の小売であるなら、
ロボットを導入して接客したところでまず効果はあがらないでしょう。
なぜなら「接客」をする限り単位時間あたりの接客数や販売総数は
人であろうがロボットであろうが大きくは変わらないからです。

これを大きく向上させたいなら「接客」をなくした購入体験、
たとえばamazon Goのような環境を整備するしかない。
「接客」を無くすのは一つの解ですが、この場合は客の消費における付加価値を
商品そのものに頼ることになり大幅に伸ばすことはできない。
どれも一長一短です。ただ共通するのは「消費者が購入したくなる商品を開発する」
「その商品の消費サイクルを適切に設計する」そして「それらにあった適切な購買体験を提供する」という点。
結局、このバランスがちゃんと設計できていなければ、コミュニケーションロボットを導入しようが、
店舗を機械化して無人化しようが、大した効果につながらない。
なので、現在は店舗や商品そして購入体験全体をどう設計するべきかを考えている、とのことだ。

タチコマによる接客で、ユーザが楽しく買い物ができる環境を作る。
まさに付加価値を感じることが出来るインフラ環境を考えていくことが、
製作者、顧客それぞれが求める付加価値へと繋がっていくのだろう。
そんなことを想像するだけで、私もワクワクしてくる。

氏の考えを聞いていると、単純にロボットを作りたい、
みんなにロボットを触ってほしいということだけではないこともわかる。
近い将来に当たり前にロボットと人が共存する環境を作りたい。
そう誰よりも考えているからこそ、現在の氏の活動なのだと思う。
その氏の想いが、この記事で多くの人に伝えることができれば幸いである。

 

*(C)士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会*

 

*本プロジェクト「攻殻機動隊 S.A.C. タチコマ1/2サイズ リアライズプロジェクト」は
攻殻機動隊REALIZE PROJECTの正式な許諾を受けて進めております*

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紹介 tadaiku

“製作者の想い“をみんなに伝えたい!!

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