【カリキュラム×ロボット】 然るべき道を指し示し、進化の波を捉える

プロフィール


仙台高等専門学校 総合工学科 ロボティクスコース
教授 桜庭 弘

略歴
■1983年4月~1992年3月 東北大学
「半導体分子層エピタキシャル成長に関する研究」
 大学院工学研究科卒業 博士(工学)の学位取得
■1992年4月~2005年3月 東北大学助手
「半導体集積回路・3次元集積回路に関する研究」
 東北大学工学部電気工学科・電気通信研究所
■2005年4月~ 仙台高等専門学校 准教授、教授
「ヒューマノイドロボットに関する研究」
「人口知能を実現する新しいハードウェアの研究」
高専ロボコンチーム指導教員、高専ロボコン競技専門委員
ロボティクスコース設立、カリキュラム設計を主導

新しい教育・ロボティクスコース

仙台高等専門学校(以下:仙台高専)で教鞭を振るう桜庭氏は仙台高専にロボティクスコースを立ち上げた。
ロボティクスコースでは、学生たちに物を触れさせ、実施に動かし、体と頭を使って覚えることを目的としている。スポーツを身体で覚えるように、ロボットと手を動かしながら、学生たちが進んで行ってくれるような教育方法だ。

ロボティクスコースは2年生からロボットに触れ、実際に動かしながら考えることで、大学の研究室のような実践的な経験を積むことができる。
コースの中で学生たち自身がやりたいことを行い、それに必要な知識は必要になった時に学ぶ方針をとっているため、学生にとって無理のないペースで学ぶことも可能だ。

そして学生といえばテストがある。
ロボティクスコースのテストはコース内で習得する内容を凝集させたコンピューターベースのテストだ。
実施場所は生徒たちの自由であり、学校、自宅、寮とどこで実施しても問題はない。
そして何よりも問題を解きながら、専門書や教科書を見て、調べてもいい。
一般論であれば、カンニング防止のため監視が目を光らせながら実施するテストだが、桜庭氏はカンニングはいけないことではないと話す。
インターネットが普及する現代で、多種多様の膨大なデータをコンピュータ上に残すことができるのだから、頭で覚えておく必要はない。
学生にとって本当に必要なこと知識は頭に残るように、このコンピュータベースのテストは一度正解しても、また何度か同じような問題が出題されるシステムになっている。
各個人と学ぶべき事柄に応じたいわゆる忘却曲線を割り出し、それに関する出題がなされ、必要項目として習得すべきことを思い出すことができる、いわば理想的な学習システムだ。
このロボティクスコースこそが桜庭氏が実施したいと考えていた理想的な教育方法である。

仙台高専にきて今年度(現:2018年)で13年目を迎える桜庭氏は、ロボティクスコースを設立するために10年かけた。それほどまでに長い歳月をかけてまで設立したかったのは、桜庭氏が現在の教育方法が面白くないと考えているからだ。
教科書や参考書を読み、教員たちが板書したものを書き写し、それをちゃんと覚えているかテストするといった詰め込み教育。
これでは学んだとしてもすぐに忘れてしまい、育つものも育たない。

自分の経験した教育方法は、次世代を担う子供にも受けさせていいのだろうか?

新しい教育方法を作った方がより楽しく学べ、身につくのではないかと考え、桜庭氏はロボティクスコースを設立した。
ロボティクスコースには桜庭氏の学生時代のフラストレーションを全て払拭させた教育方法が凝縮されている。

憧れが蘇った瞬間

桜庭氏が一番最初にロボットに触れたのは三歳の頃、NHKで放送された「サンダーバード」という人形劇による特撮テレビ番組を見たことだ。
サンダーバードの中で繰り広げられるメカを使った救出劇に興奮し、興味を持ったことがロボットに触れたきっかけである。

※サンダーバード-「サンダーバード」は世界各地で発生した事故や災害で絶体絶命の危機に瀕した人々を国際救助隊と名乗る秘密結社がスーパーメカを駆使して救助活動を描く物語。(参照:Wikipedia)

それから桜庭氏はロボットにはまり、サンダーバードのプラモデルを幾つも作った。
小学校2年生ではアポロ11号が月面着陸したことをきっかけにロボットやメカ、宇宙船といった情報が巷に溢れ出し急速に発達した、いわばロボット全盛期だ。
ロボット全盛期に少年時代を過ごした桜庭氏は小学校の頃から半田付けやアマチュア無線機を始めた。
中学校の頃にはアマチュア無線技士の資格を取得し、中学生の段階で科学技術に強い興味を持っていたことから工学系に進もうと決めていた。
中学校や高校は机に向かっているだけの学習で授業内容や教育自体が面白みもなく、大学に入ればそういった学習方法はないのではと期待し、東北大学電子工学科に進学する。
ところが大学も高校と同じ詰め込み教育であり、教授たちの話は面白く興味深いが、実際にものに触れるということはなかった。

しかし、3年生の後期から半導体の研究室に所属してからは面白かった。
物を作る、触る、動かすといった事に触れ、自分はこれがやりたかったのだと研究に没頭した。
中学校で行った半田付けや無線機の楽しさが蘇った瞬間である。

桜庭氏にとっての電気の魅力は、目には見えないが私たちの日常生活に家電製品や照明などありとあらゆるところで活躍する所だと語る。
また父親のラジオ作製風景や、ラジオを作成しながら、中の構造の仕組みや使われている部品と電気をしようしてどのようにして音が聞こえるのかを聞いていたことから、電気電子系の魅力には元からはまっていた。
それが、機械系ではなく電気系に進んだ理由でもある。
最初は両方学ぼうと思っていたそうだ。

しかし、機械は電気とは違い構造を目にする事ができるので、教えられずとも自分でも学習は可能だろうということで大学では電気系を専攻した桜庭氏
大学時代の桜庭氏の先生は西澤潤一氏であり、「日本の半導体の父」と呼ばれる方。そして兄弟子に当たるのは舛岡富士雄氏で、フラッシュメモリの開発者である。
その両師に師事を仰ぎながら、一緒に様々な半導体の研究をしていた桜庭氏。世界で活躍する一流の研究者に触れ、そこで最先端を行く電気系の技術を学んだ。
桜庭氏は大学時代、半導体関係の研究をしており、半導体を作る場所であるクリーンルームと呼ばれる無塵室に入ることがあった。そこで実際にロボットが半導体を作っている姿を見て、
「本当に指示通りロボットは動き、半導体を作っているのだ」
と、ロボットが正確に動いていることに感心した。

高専とはどんな学校なのだろうか?

大学院に進み、桜庭氏は半導体に関することや電気関係を学び、計算機や記憶装置を開発している時、電気を使うのはロボットであり、機器であることを改めて理解し、無塵室で動いていたロボットを思い出す。
電気だけでは動かすものがない。
ロボットがあるから電気が活躍し、電気があるからロボットが活躍するということを再確認した。

卒業後はそのまま東北大学で助手として就職した桜庭氏は、授業や実験で学生たちを手助けしていた。
しかし学生たちは授業についていけず、立ち止まってしまう。
学生たちはなぜ立ち止まり、ひっかかってしまうのか疑問に思っていたが、そのなかでも授業内容を理解し、実験をスムーズに行うことができる優秀な人材が何人かいた。
その学生たちに出身高校を聞いてみると、もれなく高専だった。

さらに高専への興味が高まった瞬間だった。なぜ高専の学生は優秀なのだろうか?

桜庭氏はどのような教育を行っているのか気になった。
それに高専には「高専ロボコン」という高専生がロボットで競い合うコンテストがあり、桜庭氏は以前テレビで放映されていた大会を思い出した。
学生時代にこういった大会に出たかった、こんなことをしたかったと高専ロボコンの放送を見ながら思っていたのだ。
そんな時、高専へ行けば教員として学生と一緒にロボットを作ることができるのではないだろうかと考える。
桜庭氏は高専に引き寄せられると同時に、再びロボットにも引き寄せられた。

そして仙台高等専門学校に就職。
どのような授業を実施し、優秀な学生を輩出しているのかと思えば、一般的な大学と同じ詰め込み教育で、普通の授業であることを知る。

「その教育方法はつまらないだろう。」

桜庭氏は以前から、詰め込み教育ではなく自身の手を動かして、自然と知識を身につけられた方が生徒も楽しく学ぶ事ができ、覚えられるのではないかと考えていた。
その考えをきっかけに仙台高専で出会った二人の教え子とともに、ロボティクスコースを作り、ロボティクスコースで使える教育向けロボットキットを作り上げた。

教え子とともに開発した教育キット

教育向けロボットキット・クロールは、使っている子供たちが成長することを目的として作られている。
クロールは桜庭氏の教え子である卒業生が会社を起こし開発したロボットキットだ。
開発会社は株式会社オムニメント。
その代表である教え子もまた、桜庭氏と同じ考えを持っていた。
教え子は機械系を学んでいる学生であったが、桜庭氏に電気関係の教示を受け、卒業後JRで新幹線のメンテナンスを行う仕事についていた。
しかし、ある日彼から桜庭氏に連絡が来る。

「新幹線もいいが、これからはロボットをやりたい!」

その話を聞き、ならば
「ロボットを教育する場を作るため、学校の教育改革を考えているので協力してくれ」
と話を持ちかけ、共に教育改革を始動した。
桜庭氏はロボティクスコースを作り、教え子は学生時代に楽しく学べるようなキットがあったらいいと思っていたものを考え、作り上げたのがクロールだ。

クロールの開発には桜庭氏も協力をしており、これ一つでロボットの学習が全て習得できる。
学生たちはクロールを使って、プログラムを打ち込み、自由に動かして遊んだという感覚しかないかもしれないが、本人が知らないうちに物理、化学などの基礎が身についていく。
見た目はシンプルで単純そうだが、センシングやマイクロコンピュータといった高度な技術が搭載されている。
モータやロータリエンコーダが内蔵され、パソコン上でプログラムを構築し、クロールに転送する仕様だ。そしてこのクロールは倒立を可能とする。
桜庭氏が話すには同等のクラスで倒立することができる教育ロボットは他にないとのこと。
ドローンの空中静止と同じ原理であり、人間でいえば倒れそうになったら足を出すといった反射的動作に近い。後ろに倒れたら後ろに足を出すということをクロールが行っているということになる。
倒立の他にもライントレースを行うことができ、別売りのカメラを接続すれば形と色で距離を判別し、ボールを追いかけることや、顔認識も可能だ。
稼働時間も19時間と長く、もし子供たちがクロールを使い、学習開始から飽きるまで充電をしなくても動くことができる。従来のロボット教材では乾電池が一般的だが、クロールはリチウムイオンバッテリーを積んでいるため、長い稼働時間が実現できた。

クロールの次世代型として“トライアル”というロボットがある。
トライアルはクロールを大きくしたバージョンであり、人間が上に乗ることも可能な為、ゴミ箱を乗せ自動ゴミ箱として走らせるといった、まちづくりをする構想があった。
社会実装を見据えた実験を仙台市や名取市などに声をかけ、資金をもらい実験フィールドを仙台高専に作ってしまおうと桜庭氏は考えている。
ロボットと生徒がともに学生生活を行い、ロボットが生活の中の一部となれば、ロボットと共存することが当たり前となってくる。
そこで学生に本当に役に立つロボットは何かと問いかける。
直接ビジネスに結びつくことを学生が考え始め、さらに技術を進化させるのだ。
最終的には稼働時間をさらに増やし、クロールの倒立機能を応用して、完全な人型となる二足歩行ロボットの製作を目指している。

桜庭氏は学校が単なる教育を受ける場所というだけではなく、実験場に変わるべきだと話していた。
実験をして新たな発見を生徒自身が見つけることで、生徒たちの成長や未来の技術の発展にもつながる。
そういった場所に今後していきたいと桜庭氏は話していた。
また、学校に訪問する企業や一般の方にも興味が生まれるので、桜庭氏は一石二鳥だと笑いながら語った。

道を閉ざされないように

桜庭氏は、然るべき道を考え、作り、生み出して発信していくことが自分のやるべきことではないかと感じる。
兄弟子である舛岡氏が開発したフラッシュメモリのように、世の中に出てこなければ現代の生活は豊かにならなかった技術は数多くある。
新しい技術を生み出し、役に立つものを作っていきたいと話す。
そして然るべき方向を示した結果、学生自身が歩みたい、学びたいと思える道が拓け、学生たちに限りない選択肢を与えられるのではないだろうか。
桜庭氏にとって何よりも悔しいのは、学生たちの選択肢が狭められ、道が閉ざされてしまうことだ。
そうならない為に、自分が用意できる限りの選択肢を学生たちに全て出してあげたい。
見やすく、わかりやすく、幅広く学生たちに可能性を提供することが桜庭氏の想いであり、そんな人間であり続けたいと語った。
しかし、指導者がいないことが問題だった。
ロボティクスコースのような新しい教育方法の指導に当たる教員は、従来の考えを180度変えなければならない。
実際に従来の教育の枠組みの中で教員としてやってきた教授、准教授の多くは、このやり方に賛同してくれるのは少数であり、しかも自ら進んで指導に当たることを希望する教員はいなかった。
そんな時、朗報は思いがけないところからやってきた。
一人の教え子が、仙台高専の教員に採用されたのである。
高専に来て間もないころの桜庭氏の研究室で育った彼は大学に進学し、大学院で博士号をとり、すぐに仙台高専に教員として採用された。
桜庭氏の考えに須く賛同し、ロボティクスコースのカリキュラムを桜庭氏と一緒に設計し、実際の指導を勢力的に行っている。彼のおかげで、ロボティクスコースは始動できた。

正式に立ち上がったロボティクスコースでは、すでに学生たちが自分でアクティビティを考えている。
ロボットだけでなくとも、アプリ開発で起業や、シリコンバレーに留学する学生、社会に役立つ活動をしたいと様々だ。

桜庭氏は後押しをするとともに、20年周期毎に訪れる技術的進化の波を逃さないようにしていきたいとも話していた。
真空管が出始め、その20年後にトランジスタが生まれた。
そしてマイコン、フラッシュメモリと続き、さらに20年後に3D NANDフラッシュが生まれた。
20年前はフラッシュメモリが役に立つと思う人はおらず、半導体がスイッチに変わるなど誰も考えはしなかった。
そういった技術的進化を見逃さず、新しいところに目を向けることも自分の仕事の一つではないかと考えている。
これから技術を生み出していく学生たちに進化の波を捉える目を養わせ、次の20年後に進化させるのは君たちだと教え、またその期間をいかに短縮し、打ち破ることができる可能性があるのも学生たちだ。
共に新しい技術や今後の未来を考え、学生たちの意思をもって自分たちの生活に役立つ技術を作らせることが桜庭氏の仕事ではないかと語っている。

スタートを切るまでが大事

桜庭氏は学生たちにいつも言っている言葉がある。

「スタートゾーンはちゃんと出なさい」

高専ロボコンで学生たちが勝ちたい、優勝したいと話すが、それを成すために必要なことはスタートゾーンをちゃんと出ることだ。
例えばロボコンでは、スタートゾーンにロボットを持ってくることはもちろん、スイッチを確実に入れ、ヒューズや電池を入れ忘れない。
いくつもの部品が同時に動くということは一個の部品が動く確率上げなければいけない。
競技までに自分たちの出来うる限りの準備を整えていくことが何よりも重要だ。
スタートから優勝までではなく、大会のスタート前までに積み重ねること。
スタートを切ってしまったら後戻りはできないのだから。
そのため準備からスタートまでの時間を大切にし、それを見失ってはならない。
また教育方法も、スタートゾーンをちゃんと出るために、学生達が面白い、楽しいと思えるような教育をしなければならない。
学校で行われる教育というのは学生たちが初めて触れるものが多く、これからの社会に出ていくためのスタートゾーンでもある。
小学校、中学校、高校と全て違うことを学ぶからこそ、その時々に行われる教育方法は大切なのだ。
大切だからこそ、学生たちにとって有効的な教育方法を確立するために桜庭氏ロボティクスコースを設立させた。

そして桜庭氏の座右の銘は「積み重ね」であり、苦しい時に陥ったとしても、そこから何かをやるのではなく、最初から積み重ねていくことが重要だ。

積み重ねていくことによって、自分が何をしたいのか見えてくる。
様々なことを経験し、自分が本当に楽しいと思うことを見つけたら、どんな自分になりたいのかにも同時に繋がってくる。そしてなりたい自分に近づくために努力をするだろう。
もし手助けが必要になった時、大人は確実に手を貸し応援する。

なりたい自分というのは未来のものであり、教えられるもののほとんどは過去のものだ。
もちろん過去のものを使うことは悪くはないが、それでは何も変わらず、進化もしない。
未来を作るのは学生であるのだから、教えられたものを進化させ、未来を見据えてなりたい自分を見つけて欲しいと話してくれた。

桜庭氏の想いは今の教育のあり方の訴えと、未来の子供達の後押しをしてくれる言葉があった。

株式会社 OMNIMENT:https://omniment.co.jp/
教育ロボットキット CRAWL:https://omniment.co.jp/crawl/ja/

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紹介 さくまみさき

楽しく、驚く記事であり、製作者の言葉が、一人でも多くの人の頭の片隅に残るような記事を書いていきます。

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