プロフィール

杉原行里(すぎはら あんり)
株式会社RDS 代表取締役
4RE 代表
HEROX 編集長

経歴
2006年 Ravensbourne University London 卒業
2008年 株式会社RDS 入社

柔軟性を活かして“共感”を生むロボットを目指す

鉄腕アトム、鉄人28号、ドラえもん、ガンダム、Dr.スランプ、トランスフォーマー、エヴァンゲリオン…日本には多くのロボットアニメ・漫画があり、昔からロボットは私たちのヒーローであったり、パートナーであったり、時には兵器であったりしてきた。
これらのロボットコンテンツに基づいて日本ではロボットに親しみを持つような独自の文化が形成され、各世代がロボットに関して何らかの接点があり、幼少期に憧れを抱いてきた。
今でもロボットの祭典が開かれれば子供を中心とした老若男女が多く集まり、盛況を見せる。

このように「ロボット」はエンターテイメント性が高く、老若男女を楽しませてきた。
しかし、楽しいだけのロボットでは心を動かすような「感動」は与えられても共感を生むことは難しい。

今回取材した杉原氏は「柔軟性」を大切にしながら、どうしたら共感を生むロボットをつくれるかを考えている方である。

この「柔軟性」に関する考えは高校時の英国への留学経験に起因している。
杉原氏は高校入学と同時に渡英し、高校から大学までを英国で過ごした。
高校入学までの杉原氏は人とコミュニケーションをとることを得意としていた。しかし、英語を話せない中で留学したことにより、言語を奪われ、得意であった「コミュニケーション」がとれなくなった。

当時のことを杉原氏はこう語った。

「まさに“アイデンティティの崩壊”でしたね。僕はそれまでコミュニケーションで生きてきたのにそれを奪われたわけですから。でも、そのおかげで、アイデンティティの組み換えが起こったというか。自分のアイデンティティが奪われた中でどう生きていくかというのを考えさせられました。このことから“状況に応じて人は変化する”ということ、転じて、“状況に応じて変化する”ということが大切だと気付きました」

この“柔軟性”は、杉原氏のインタビューの中で多々見受けられた。
杉原氏の“柔軟性”にもぜひ注目していただきたい。
杉原氏は高校卒業後、英国に残り、大学で建築デザインや自動車などの工業デザインからユニバーサルデザインや医療機器関係のデザインを学び、2008年現在の会社に入社した。

今回は同氏が代表取締役を務める株式会社RDSが所有しているロボット、「アイアングローリー」を通した今後の展望について取材した。

特別なロボットを日常生活へ

杉原氏がアイアングローリーと出会ったのは2018年のことである。
杉原氏が代表取締役をつとめる株式会社4REがメガボッツ社(本社:アメリカ カリフォルニア)のアイアングローリー事業を買い取ったことに始まる。
その後、メガボッツ社のアイアングローリーをRDS社で引き取り、事業を展開してきた。

アイアングローリーは高さ4.5メートル、重さ5.4トンの2人乗り巨大ロボットで、両腕にはマシンガンやミサイルにも見える部品がついている。
そのため、アイアングローリーは一見、私たちがアニメで見てきたような「戦闘ロボット」のようだ。
その見た目のインパクトはすさまじく、2019年5月18・19日にお台場特設会場にて開催されたスポーツ&カルチャーイベント「CHIMERA GAMES (キメラゲームス)vol.7」にてアイアングローリーの搭乗体験を行った際には子供や男性を中心に大人気だったという。

結果的にイベントは大盛況で成功に終わったが、杉原氏はイベントでのアイアングローリーについてこう語った。
「子供たちだけではなく、多くの大人にも楽しんでいただき、イベントは成功だったと思います。
しかし、これからどう成長していくのかといったアイアングローリーの未来を見せられなかったため、アイアングローリーは“楽しいロボット”止まりになってしまいました。
アイアングローリーのようなジャイアントロボットをエンターテイメント化していくのであれば、どこか一般に落とし込まないと多くの人たちの共感を得られないでしょう。
そのため、アイアングローリーのエンターテイメント性をどう日常生活に落とし込めるかを考えることが課題になりました」

日常にあるテクノロジーが共感を生む

「エンターテイメント性を日常生活に落とし込める」というのはどういうことなのだろうか?

杉原氏は続けてこう語った。

「僕は、日常生活で使えるようになる、使われる技術こそが、“テクノロジー”だと思っています。
例えばパドルシフトはF1で生み出された技術ですが、現在では日常で使われる車にも採用されているなど、すでに一般社会に落とし込まれています。
このようにアイアングローリーの技術も日常生活で使えるようにすることが必要だと考えています」

そのためにも、杉原氏はアイアングローリーを踏襲しつつも、遠隔操縦を取り入れた次世代型のロボット開発を目指していくそうだ。
そのロボットで目指していることは、「3K(きつい、汚い、危険)の仕事がロボットを使うことで遠隔作業が可能になることです。また、今まで障がいや就業環境など様々な理由で仕事をできずにいた人がロボットを使って仕事ができるようになること」としている。

ロボットを扱うことによって、身体に障がいがある人でも負担なく仕事ができることに加え、ロボットを仕事相手にすることで、コミュニケーションが苦手な人でも個人に適した働き方を選べるようになる。
そして遠隔でロボットを使うことによって都会から地方の作業が可能になり、反対に地方から都会の作業も可能になる。そうすることで、地域に限らず仕事が選べることができ、職業の幅が広がるだろう。

また、杉原氏は遠隔ロボットを使用することにより農業も自宅からできるようになったら面白いとも語った。
個人がロボットを所有し、位置情報とドローンも活用することで、種まきから収穫まで完全遠隔化できる。
そうすれば居住地を問わず農業が行えるため、日本の職の広がりや食料自給率に貢献できるだろう。
このようにアイアングローリーの技術を日常に使えるロボットに応用することで、アイアングローリーは乗ったり見たりして“楽しめる”ロボットとしてだけでなく、私たちの日常に使われるロボットとして親しみを持つことができるようになる。
つまり“共感”を生み出せるようになったのである。

ロボットの未来:ユニバーサルデザインからパーソナライズ化へ

現在、新型感染症の爆発的流行により世界中が未曾有の事態となっている。
杉原氏に今後の社会の動きをどう予測しているかも伺った。

「僕は現在IT革命が起こっている最中だと思うんです。
IoTが生活に浸透し密接な関係を必要とするには多くのことをクリアしなければいけない。今回の有事にてその決断が迫られ、緊急性を有する需要が高まっていることで、人だったり社会だったりのマインドが変化しているからです。
日本でも新型感染症が流行する前には“置き配”なんて考えられなかったでしょう。
この有事の後には医療現場には間違いなくIoTが入ってきますし、人々の健康意識も変わることが予測されます。
このような変化の中で、僕個人はもちろん、会社としても主体性を持っていきたいと考えています」

社会の変化に敏感に注意を張り巡らせている杉原氏。
どの業界もそうであるが、社会の変化に柔軟に対応していく・ニーズをくみ取ることが重要である。

ロボティクス分野に関する意見も伺った。

「今回の事態によってロボティクスの未来は格段に速くなりました。
今までロボットが使われなかった分野でも使われていくようになるでしょう。
“置き配”にも使われるようになるかもしれません。
また、今回の有事に関係なく、ロボティクス分野でもパーソナライズの量産化が起こるのではないかと考えています。
今まではユニバーサルデザインが主流で、人がものに合わせる時代でした。
しかし、今後はものが人に合わせる時代がくるのではないかと考えています。
その考えから、車椅子やオフィスワーカーなど、最適な座るポジションを科学するために製作されたシーティングシミュレーター装置 / RDS SS01(A’ Design Award 2020 Bronze受賞)の共同開発や歩行解析ロボットの開発にも取り組んでいます」

杉原氏は車いすなどに活用できるシーティングシミュレーター装置 / RDS SS01
千葉工業大学fuRoと共同開発した。

この装置は、車輪や座面・背もたれなどを、数ミリ単位で動かすことができ、利用者の力が車輪に一番伝わる設定のデータを収集できる。これにより、車いす利用者一人一人の身体や特徴に適した設定が可能になった。

ロボット単体の在り方だけでなく、社会の動きの中でのロボティクスにも注意深く目を向けている杉原氏。
今後、杉原氏の手がけるロボットがどのように日常に溶け込んでいくのか注目していきたい。