プロフィール

バイバイワールド株式会社 代表取締役
NPO法人CANVASフェロー
よしもとデジタルクリエイティブアカデミー講師

髙橋 征資(たかはし まさと)

【経歴】

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科後期博士課程 単位取得退学(2012年3月)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修了(2009年3月)
IPA 未踏IT人材発掘・育成事業 スーパークリエータ (2009年)

えっ、HelloではなくBye bye?

『バイバイワールド』。その名前だけでもプログラマーやエンジニアは「なぜ?」と動揺するであろう。誰もが最初スクリーンに映し出す言葉である「Hello, world」。社名はその逆なのだから。髙橋さんが大学に入学し、初めてプログラミングを学んだ際に、「Hello, world」が表示され、

「これは『コンピュータで作られた世界に入る挨拶』ということか。このままプログラミング技術だけ磨いても、ボクは画面の世界の中だけで楽しめるものしか作れないのではないだろうか。この世界から出なきゃ!」

プログラミングを含めた総合的なモノづくり。人と人、人と物の間にこれまでにない体験を作れないかと考えたそうだ。

ビッグクラッピーは陽気な声掛けと拍手でお客さんを呼び込む、集客に特化したロボット。

知れば知るほど、髙橋氏は一際異彩を放っているクリエイター、そして思考の持ち主である。

今回、筆者は、その髙橋氏のブログ等にも載っていないような疑問を深堀っていく。

人より苦なく、楽しいことを考える努力ができる

髙橋さん「基本、エンタメ系が昔から好きで。漫画も好きだしゲームも好きだし、お笑いも好きだし音楽も好きだし。全般興味があって。それ関連の仕事がしたいと思っていた。それこそロックスターを夢みた時期もあるしゲームを作ろうと夢見た時期もあった。小学校の頃は漫画家になろうとしていたし。その時の気分によって夢というか目指すことが変わっていった」

――楽しい事が好きなのですね。

髙橋さん「そう、楽しいことが好き。で、大学1年生の時はゲームが作りたかったんですが、自分が向かうべきは大企業の様に大勢のチームでつくる方向なのか、少人数でつくる方向なのかを考えた時に、バンドメンバーくらいの人数感で生み出す尖った作品、表現が自分は好きだしやっていきたいなと思った。今でこそインディーゲームとかがありますけど、自分が憧れるゲームは大人数ですごい手間をかけてつくっていて、そこに乗り込んでいくのは大変そうだなと。」

髙橋さん「バンドはバンドで、ギターをやっていました。でも自分の能力では人を笑顔にできないなと。ちっちゃいころから物づくりが好きで、大学3年生になって改めて自分のことを見つめ直した時に、『楽しいことを考えて、具体的なものづくりに落とし込むこと』が自分は好きで、人より苦なく努力できるようだ、と気付きまして。それで今の形がある。楽しけりゃいいです。自分もみんなも」

自分も皆も楽しけりゃいい

ロボット開発への道を志すきっかけにNSC(吉本養成所)での経験がある。

髙橋さん自身も子供向けのワークショップイベントでステージに立ってメンバーと一緒にコントをしたそうだ。その時に、人前に立つことは自分に向いてないと感じたという。ある程度の脚本があってそれなりに進んでいくが、時にはアドリブ力も必要になる。またその人にしか出せないキャラクターの魅力でウケるネタがあるのは事実で珍しいことではないと感じたそうだ。

髙橋さん「同じことを自分がやっても同じように笑いが取れないこともある。それはその人の魅力が成せるものであって、真似できるものでもない。」

キャラクター性の高い人物を台本通りに動いて貰おうと考えたが、人間には感情やその人の人生があり、必ずしも思うようにはいかない。しかし、キャラクターを作り出せば、自分の思い通りに動かせる。

物づくりが好きな気持ちも相俟って、ロボット開発を志したという。

自分じゃなくて、キャラクターが注目されればよい。髙橋さんは話した。

今あるものでも面白く

髙橋さんはよしもとロボット研究所でPepperのアプリ開発のチーフクリエイターを務めた経験がある。

お笑いをロボットにやらせることが目的で携わることになったため、一流のTV制作者たちのお笑いメソッドを学んだ貴重な経験であり自信になったと話す。

店頭に立つPepperを見て注目を集めて人が寄ってくるというパワーを感じたという。その光景を見た髙橋さんは「ただ大きいロボットが踊っていたり、声をかけたりするだけでも充分なんじゃないか」と考えた。

髙橋さん「店頭に居て『いらっしゃい! 良いものあるよ!』と手を叩きながら声を掛ける。見た人が『なんだこれ? 手を叩いている?』と思う。そして、目があって心を掴まれて近づいていく……それでお店の集客や広告の力になればいいなぁと。その「つかみ」に特化したい」

AIといった最新技術を取り入れると、莫大な開発リソースが必要だし、お客様にサービス料を頂くことになる。それならば、ある程度セリフ量があって、自分でもそれをカスタマイズできれば充分なんじゃないか、と感じたそうだ。最先端技術であることはマストではなく、ローテクでもこれまでに無い面白いものは作れる。

そうして、目的をはっきりさせ、不要だと感じる部分をそぎ落としていった結果、拍手系ロボットに至ったそうだ。

拍手が楽し過ぎて13年経過

親しみやすくコミカルな表情と目を引く真っ赤なビジュアルが特徴の『ビッグクラッピー』。

お笑いも学ばれている髙橋さんなりのこだわりあってのビジュアルなのだろう。

髙橋さん「一瞬で考えました。迷わなかったです。ラクガキするみたいにシュッシュと」

しかし、置いた時に目立つことや一目で拍手をするロボットであることが伝わるビジュアル、丸や柔らかさを意識したという。特に頭の上で手を合わせているのは、重心の取りやすさだけでなく、胸の前だと真面目な印象を与えることを避ける為だという。

また、ビッグクラッピーのセリフは髙橋さん自らが吹き込んだという。やはり人工音声だと言葉のイントネーションや感情を上手く表現できないそうで、ポジティブなロボットにするためには重要なことだという。また、遠くの人にも声が届くよう、声を遠くに飛ばすことを意識し忘れないようにしているそうだ。

そんなビッグクラッピーは試作段階の時期に、東京都稲城市の商店街にて設置する機会があったという。そこでは小学生から高齢者まで、老若男女問わずびっくりする程、たくさんの人が集まったそうだ。この段階では何を主な用途に売り込むか悩んでいたそうだが、この時の反応を見て、拍手をする集客に特化したロボットが活躍できると確信したそうだ。

そして、『パチパチクラッピー』という片手で拍手できる玩具が100円ショップに並び、購入者が各々でアレンジし楽しんでいく『クラッピーチャレンジ』がムーブメントになった。

facebook上のクラッピーチャレンジのコミュニティURL:https://www.facebook.com/clappychal/

髙橋さん「100円ショップに並ぶようになった時点で煮るなり焼きなり好きにして、と思った。どういう影響を及ぼすか考えていなかったので、クラッピーチャレンジが発生した時は驚いた。そんな需要があったんだと他人事の様に楽しんでいました」

ムーブメントになったことを見られたことが楽しくもあり、オープンキャラクターの感覚で楽しんで、愛してイジってもらえることは有難いと話す。投稿を見て、元ネタはなんだろうと調べてくれて結びついてもいく。

ビッグクラッピーはそもそも人集めを目的としたイベントなどで活躍するロボットであるため、大人数で集まることが躊躇われるご時世により、以前より需要は下がったと感じている。しかし、ケータイショップといった、店頭で声掛けをしながら呼び込みをしたいという業種からの依頼は増えていったという。

今後も、楽しい体験を提供する玩具、アプリの開発やテーブルに乗るぐらいの小型拍手ロボットの開発が進んでいるそうだ。コロナ禍で、店舗内で軽く声掛けができるような小さいサイズの需要が高まっていると感じているそうだ。

髙橋さん「元々、置き場がないという声はあった。一度、ケーキ屋さんに置かせて貰った時に、店舗内での存在感が凄かった。もうちょっと大人しいものも作らないと、と思った」

また、ビッグクラッピーの顔を動くような仕様にしたいとも話した。隣のビッグクラッピーに顔を向けて話す姿は漫才師を彷彿とさせる。

楽しく学ぶ

髙橋さんは「よしもとデジタルクリエイティブアカデミー」で講師も務めていた。また吉本興行が出資する教育系サービスのコンテンツ開発も行っているそうだ。

髙橋さん「学びだけじゃなく、エンタメ要素がある遊びと学びのコンテンツ開発ということで声を掛けて頂いた。僕自身そういったことが好きだし、子供も好きなので楽しんでやらせてもらっている」

ワークショップも、学びになっても楽しくないと味気ない。子供が楽しんでくれることはやっぱり嬉しいと話した。

ビジネスVS楽しさ

「楽しいこと」でお金を得ることは難しくハードルが高いと話した。というのも、TV番組のように「楽しいこと」は無料で私たちに提供されているものが多く、映画やゲームの様に莫大なリソースをかけないことには金銭的価値がつきにくいという。

ビッグクラッピーのようなロボットは今までになく、競合も少ないといった特徴があれば、興味を持って、購入して頂ける。

髙橋さん「老若男女問わず楽しんで頂けるものを作りつつ、それを買って頂けるお客さんとなると凄く狭い範囲になってくる。例えば、めちゃめちゃリアルに動く犬のロボットと普通にかわいい犬のぬいぐるみがあるとすると、かわいいフワフワのぬいぐるみを抱きしめて癒されるだけでわりと充分だったりする。そこにリアルに動くという機能があればもちろんより楽しいが、何万円という価値をのせて買うか? と冷静に考えると、ぬいぐるみにはなかなか勝てない」

より楽しくという想いを価値に結び付けることが難しい。そこが無くてもいいがあったら豊かなものである「楽しいこと」への難しさだと話した。

情熱を持って意味の分からないことを

髙橋さんに、ロボット開発を志す人や少年少女へのエールをお願いしたところ、今の子供は自分たちの世代で考えると信じられない程、真面目でしっかりしている子が多いと感じると話した。

髙橋さん「でも、それじゃ面白くないなと。不正解を『間違っているじゃん』で終わらせてしまってはもったいない。一見意味のわからないものでも思わず笑ってしまうものが好きだし、そういう人を愛してます」

誰しも心の中で、ふと「面白いこと」は考えついていると思う。それを周りの風潮で挑戦できないでいる。そんなこと気にせず挑戦していっていいのではないか。でもやるからには真面目に直向きに。と髙橋さんは話す。

しっかりしている人が多い世の中だからこそ、情熱を持って意味の分からないことをやりきることができる世の中になって欲しい。それは一貫して「楽しいこと」に取り組み続けた髙橋さんだからこそ感じる想いである。


■ビッグクラッピー特設サイト: https://www.bigclappy.com/
■バイバイワールド株式会社(公式サイト): https://www.byebyeworld.co.jp/works.html
■バイバイワールドYoutubeチャンネル: https://www.youtube.com/channel/UC6tWbC2p8rRlmygivL5QFew
■髙橋 征資さんTwitter: https://twitter.com/bye_bye_world