プロフィール

■井上 貴裕
【略歴】
1997年4月 シャープ株式会社入社
2017年1月 株式会社 hapi-robo st入社 ダイレクター
2018年4月 株式会社リビングロボット共同設立 同社COO
2022年2月 株式会社リビングロボット取締役(現任)

■遠山 理
【略歴】
2005年4月 シャープ株式会社入社
2017年1月 株式会社 hapi-robo st入社 ダイレクター
2018年4月 株式会社リビングロボット共同設立 同社CPO
2022年2月 株式会社リビングロボットCPO ハードウェア開発部長

■亀井 栄輔
【略歴】
有限会社CISロボット事業推進グループリーダー

フューザス株式会社代表取締役

あるくメカトロウィーゴや、ロボホン、ロビ2に対し、モーションプログラムや、自ら作詞作曲した楽曲の提供を行うクリエーターでもあり、ロボットの開発やデザインも行うロボット屋でもある。ディズニーの「生命を吹き込む魔法」を、ロボット向けに独自に進化させた生命感のあるモーションに定評がある。

「ウィーゴって知ってる?」

© MODERHYTHM / Kazushi Kobayashi

Twitterのトピックで時折、目にしたことがある読者の方も多いであろう株式会社リビングロボットの『あるくメカトロウィーゴ』。コミカルな動きと丸いフォルムが愛らしいホビーロボットだ。

あるくメカトロウィーゴ』自体は最初から歩いたり踊ったりしたわけではない。これはモデリズムの3D造形家・小林和史さんがデザインし、2011年に初めて販売され誕生したオリジナルロボットキャラクターだ。

亀井さんと井上さんが開発のきっかけとなった話をこう振り返る。

亀井さん「川内社長から『ウィーゴって知ってる?』って電話を頂いた際は『聞いたことあるかな?』くらいだったんですが、すぐに調べて即通販でプラモデルを購入し、モーターをどうやって組み込んだらいいかなっていう検討を始めました。

別にそれが最初じゃなかったんですよ。他のキャラクターでも川内社長から『これ、ロボットに出来ないか』って相談頂いて、それを二足歩行ロボットに作り上げるって事は何度かやっていたので、『ウィーゴ』も抵抗なく作業が出来ました。でも実際製品にするにはその後の皆さんの作業がとてつもなく大変だったと思うんですけど、僕は最初の基本部分を担当させていただきました」

井上さん「元々『ロボホン』をやっていた時に様々な業界の方々とロボットに関する話をする中で講談社さんともつながりがありました。

その後リビングロボットを立ち上げた直後は自分たちで作り上げたロボットなんか当然無いですから、在り物のロボットで委託を受けて、プログラミングをやったり、導入をサポートしたり、そういった事しか出来ていなかったんです。

ゼロから新しいロボットを作るにあたり、やっぱりある程度世の中に受け入れられているデザインを活用した方がウケもいいだろうし、そんな時タイミングよく講談社さんから話を頂いたので、その後はトントン拍子でコラボレーションの話が進んだという流れです」

“バラす”から“つくる”へ

井上さん「小学生の時からラジカセとか電卓とかそういう類の物をバラすのが大好きで、調子悪くなったら、すぐバラしていました。

その流れで中学、高校、大学とパソコンなどに興味を持ち、そういった情報関連機器を作りたくてとあるメーカーに入社しました。20年くらい勤めましたが、まずパソコン等を製造する部署に入り、そこからPDAと言う当時の小型情報端末に携わった後、それと携帯電話を融合させた、今でいうスマホの走りのような複合通信端末を担当しました。

そこから本格的にスマートフォンの開発に移っていったのですが、当時はまだロボットとの接点はありませんでした。ただ2010年代にもなってくると、スマートフォンってあまり新規の要素が無いというか……これ以上大きな変化は望めないと思っていました。

そういうのもあって、『ロボホン』と言う、ロボットとスマホを融合させたようなものを作りました。これがただくっつけたというよりは人とデバイスとのインターフェイスを拡張させつつ人型ロボットに近づいていったという感じで、専門家の方々と議論を重ねていくうちに面白みも見出していき、今後こういう領域が発展していくんだろうという想いが徐々に高まっていきました。

その後本格的にロボットの仕事を継続していく為に、その会社を離れて別のロボット会社の立ち上げに参加しました。ロボット業界の専門家の方々って本当にイチから手作りでロボットを作り上げる方も多く、そういった意味でのロボティクス技術は我々に優位性はなくて、ただ、小型で高性能な携帯端末を作る技術は優れているんですね。

なので、我々の使命としては大型のロボットではなく、強みである小型で高機能かつ人とのインターフェイスとなれるようなコミュニケーションロボットを作っていくことだと考えています。『(メカトロ)ウィーゴ』もそうだし、こういった類の商品も引き続きやっていきたいと考えています」

遠山さん「私は社会に出てから携帯電話を作るところから入っていて、当時では本当に最先端な所、精密部品や高性能な所を色々と体験させて頂きました。スマホで例えたら全体というよりは一部分、例えば表示の部分だけを見ているようなところでずっとやってきました。

その中で、先ほども話に出た『ロボホン』というモデルを最後にやった時に初めて領域を飛び出た感じで。全体的に動くっていう新しい製品をやり始めた時に個人的に非常にこう……いろんな意味で可能性が広がった実感がありました。それを一度きりで終わるのでは無くて継続してやっていきたいと思い、今もロボット開発の仕事に従事しています」

――元々、井上さんと遠山さんは同じ会社だったのでしょうか?

井上さん「そうですね。(リビングロボットを)立ち上げた時にエンジニア4人――社長の川内と中村と遠山と私と4人で立ち上げたので、元々の電気メーカーから今のリビングロボットまでの流れは同じです」

画竜点睛クリエイターの亀井さん

――リビングロボットとの出会いはどういったものでしたか?

亀井さん「社長の川内さんとは当時携帯電話が全盛期だった20年以上前から仕事で関わらせていただいていて、お声掛け頂いたのがきっかけです。特にこの『ウィーゴ』に関しては、川内さんから『こういうプラモデルがあるんだけど』って最初に言われて、『これロボットにしたいんだけど』っていうお電話頂いたのが始まりでした」

――ロボット開発に集中しようと思ったキッカケは何でしたか?

亀井さん「もともと技術者をやっていたのですが、大病を患って闘病中だった時に、『ロボットをやりたいなぁ』と強く思うようになっていました。すると、社会復帰したタイミングで川内さんに、ロボットやらない? とお声掛け頂いたんで、ビックリしつつ『本当ですか?やります!』ってなって。それ以降、ロボット開発と音源製作に集中するようになりました。今も会社に無理を言って、専業でやらせてもらっています」

ヒヤヒヤしながらの開発エピソード

遠山さん「そうですね、『ウィーゴ』で言うと元々世に出ている製品なので、プラモデルも含めファンは世界中にいらっしゃると思っていました。そういう『ファンの方の期待を裏切るような物だけは絶対に作っちゃいけない』っていうのは頭の中にあって。

通常であれば外観のデザインと中身のバランスを取りながらの設計をしていくことが多いですが、今回はプラモデルサイズに如何にロボットの部品を納めていくのか悩みました。外観デザインが決まっている、既に製品としてある物を我々がロボットにした時に、期待外れにならないような形でどうやって進めるかっていうところは考えました。

あとはもう本当に楽しい思い出で、品質を担保できるようにひたすら一生懸命頑張って試作を繰り返して作りました。それをなんとか形までいけたっていうのは自分の中でも非常に嬉しい製品になったと思っています」

井上さん「そうですね……。大きなメーカーでのモノづくりとなると、チームで1つの機能を担当して、最終製品は数百人規模で作り上げるのですが、リビングロボットでは4人しかいない中で、ちゃんと使い物になるロボットを作って量産しないといけない。

なので、リソースが無いことによる『ほんまに出来るんかいな』みたいなしんどさや……亀井さんや社外の皆様から色んな協力を得ながら、ベンチャーとしての難しさみたいなものは感じました。当然エンジニアリングばかりして会社が成立する訳では無いので、会社の運営等にも気を配りながら、今もですけど、初めてのことも多くなかなかしんどいなぁって感じていました。

ただ良かったのは、デザイナーの方がいるので注意しないといけませんが、自分たちの好きなことに活用できるオリジナルのロボットが開発できたことです。教育やその他の様々な分野に活用できるし、ビジネス的にはこれからかなって感じています」

子犬を抱えるように持たれるウィーゴ

© MODERHYTHM / Kazushi Kobayashi

井上さん「我々は元々スマートフォンに携わっていたという事もあり、『ウィーゴ』って見た目はプラスチックで可愛らしい感じですけど、中身は各種センサーを搭載し、業界でも相当ハイエンドな仕様になっています。

なので、我々が目指している『人間と共にロボットも成長していく』パートナーロボットプラットフォームを考えた時に、ロボット単体だけではなく、様々なシステムにおける人との接点、”エッジデバイス”としても使えます。

例えば教育分野で小学生に使ってもらうのもそうだし、幼稚園児もコンテンツを合わせれば使えるしお年寄りでも使えるし、『ウィーゴ』だけでももっと広い世代の方に使って頂けるようなアプリケーションを出せるんじゃないかなと感じています。

当然このロボットだけで終わるつもりもなく、幾つかのロボットを並行して開発しています。人やシチュエーションに合わせてそういった”エッジデバイス”として合わせられるロボットのバリエーションを増やしていくのが現在の目標です」

亀井さん「表情筋のないロボットの場合、怒っているのか笑っているのか分からないじゃないですか? だけどそれを体のモーターの動きだけで表現したい思いがありました。LEDの色や効果音なども補助的に使いますが、動かし方やスピード、止めるタイミングなど、些細な要素ひとつで印象が変わってくるんですね。例えば、ロボットを動かすときに、等速動作からピタッと止めるのと、スピードを落としながらゆっくり止めるのとでは、全然違った感じがします。アニメーション用語で”イージング”といいますが、『機械感』を出したいのか、『生命感』を表現したいのか、背景やストーリーも考えて動かし方を考えています。その辺には、かなりのこだわりをもって製作しています」

――メカトロウィーゴのユーザーの反応をみてどう思われましたか?

井上さん「私も実はプログラミングの授業などにウィーゴを導入頂いている小学校で先生役をやったことがあるんですけど、とにかくウケがいいですよね。とても盛り上がる。Scratchプログラミングの教材として出しているのでボタン押せばロボットって動くんですけど、『まだ、押さないでくださいね』って言っても絶対何人か押すんですよ。で、動いて大盛り上がりになって。まぁ学校によって色々雰囲気が違うんですけど、ノリが良い所だとそれで一気にカオス状態になるみたいな……それくらいウケが良かったです。

そこがひとつ生徒さんのモチベーションにもつながり、凄く集中して作業されるんです。先生方からも凄い好評で、『また、是非』みたいな。そこはやっぱり製品のクオリティがある程度担保できているからこそで、そう言って頂けるのは凄く有難く思います。

やっぱり使っていると授業中は押しちゃいけないブロックとか押すんですね。(メカトロウィーゴは)凄いトリッキーな動きも用意していて、前転したりバク転したりもしてくれるんですけど、まぁ机から落ちるとプラスチックのパーツが割れて……。それは我々からしたら修理できるので『いいですよ、いいですよ。あとでコッソリ直しときますよ』って感じでやり取りさせて頂くんですが、そうすると生徒さんが凄く悲壮な顔で『すみません、割れちゃいました……』みたいな感じで言ってくるんです。

やっぱり亀井さんが吹き込んだモーションには生命感があるから、ロボットがただのモノではなくパートナーになって、お子さんたちが壊してしまったことに非常に凹むと。そういうリアクションが逆に嬉しいなって。亀井さんのスペシャルなモーションがあってこそです」

遠山さん「やっぱり私も初めに嬉しいなと思ったのは、先生が『落っことしたらダメだから、しっかり持ってね』ってはじめてお子さんに渡すと、本当にちっちゃな子犬とかを抱えるような感じで持って歩いていたりとかして。

先程言ったみたいに『動かしたらダメだよ』って言いながらもすぐに動いたら、なんかこう皆が笑顔でやり始めるっていう。今までお子さんたちもそういった所で喜んでくれているっていう。

例えばスマホとかって本当に日常的になってきていて、買った直後はワクワクがあるんですけど、iPhoneとかも使い始めたら当たり前のように使ってしまっているので、お客さんがウィーゴを使っている所をマジマジ見て『あぁ、凄い喜んでくれている、笑顔で使ってくれている』っていう経験が個人的にはすごい嬉しかったです。そういった場面を見ると今までやってきた苦労というのも吹っ飛ぶような気持ちで、皆さんが笑顔で使ってくれるっていうのがやっぱり1番嬉しい事かな。

技術者のエゴみたいな、こういう機能を積んだら良いよねっていうのは凄い事なのかもしれないですけど、やっぱりユーザーが笑顔で使ってくれるっていうのが、今後私たちが重要視していかないといけない所なのかなと改めて感じました」

亀井さん「同じ気持ちですね。私も色んな所で授業に参加させて貰っているんですけれども、動いた瞬間の子供たちのあの顔を見たら、もうみんな吹き飛ぶ感じですね。あの笑顔は本当に良い薬ですね…。知らない子でも本当に可愛いです。それに救われています」

ハードモードな若い世代へのエール

井上さん「学生の方とか若いエンジニアの方々は、将来何に役立つか分からなくても勉強出来る時には勉強しておいた方がいいよっていうことですかね。ずっと日本で生活していて、学んだ内容が将来どう役立つのか紐付けされなくて、例えばロボットやスマホ開発でもそうなんですけど、大学の先生の下手くそなって言ったら失礼ですが、講義を聞いてもよく理解出来ないという事は結構あると思うんですね。でもその知識は結局どこかで必要になる……勉強しておけば良かったってことが結構あります。

あと、私はちょうど就職氷河期世代ですが、今会社を立ち上げていて若い方やインターン生と話していると、今の若い方々の方が大変な時代の就職活動を経験しているなと感じています。さらに終身雇用っていう所も崩れているので、色んなことを考えて、自分の就職だったり、スキルだったりを考えないといけない。

リビングロボットもそうなんですけど、苦労はするけどベンチャーを自分たちで立ち上げるっていう方法もあるし、大きな会社に入って色々経験積んでからやりたいことをやるとか、今の時代であっても色んな道が考えられるので、腐らずにやって欲しいなぁって思います」

遠山さん「井上が言ったように、もともとは凄い大人数で開発をしていた所から、『ウィーゴ』を始めてこんな少ない人数で製品を世に出していけるのかっていう不安がありました。でもいざ自分たちで開発するってなり、チームとしてコミュニケーションを取りながら成し遂げるのが非常に重要だというのを勉強させて頂きました。

やっぱり自分一人でやろうとすると限界が来るし、専門的な部分は分からないことの方が多くて、そういう時に一緒にやっていくメンバーとコミュニケーションをしっかり取ってやっていくのは色々とものを進めていく中で重要だと思いました。

外の部品メーカーの会社さんであったり色んな部分を手伝ってくれる会社さんだったり、そこら辺は人と人との関係で成り立っている部分で、勉強も大事ですけどやっぱりコミュニケーション能力っていうのは社会に出てから非常に重要だなと思うので、そういう部分を磨いて欲しいと思います」



\詳細はこちらからチェック!/
■株式会社リビングロボット公式サイト:https://livingrobot.co.jp/
■株式会社リビングロボット公式Twitter:https://twitter.com/LivingRobot2018
© MODERHYTHM / Kazushi Kobayashi