プロフィール

弘前大学 竹囲年延(たけいとしのぶ)

■略歴
2007年7月 筑波大学
1モータ2リンクロボットによるリンク回転式動歩行の実現
筑波大学大学院システム情報工学研究科卒業 博士(工学)

職歴:
2007年4月~2008年5月  茨城県工業技術センター 技術融合部門 任期付研究員
2008年6月~2009年3月  (独)産業技術総合研究所 知能システム部門
フィールドシステム研究グループ 特別研究員
2009年4月~2010年3月  (独)産業技術総合研究所 知能システム研究部門
フィールドロボティクス研究グループ 特別研究員
2010年4月~2011年3月 筑波大学大学院 システム情報工学研究科
知能機能システム専攻 助教
2011年4月~2015年 現在 成蹊大学理工学部システムデザイン学科 助教
2013年9月~2015年 現在 首都大学東京 工学系 システムデザイン学部 非常勤講師
2015年10月~ 弘前大学大学院理工学研究科 助教

ソフトもハードも共同開発

竹囲氏は現在トヨタ通商株式会社クラフトワークス東京都産業技術センター、そしてJWP株式会社ジョイ・ワールド・パシフィックと共に風車点検ロボットの共同開発を行なっている。
風車点検ロボットを始めたのはトヨタ通商の浜村氏が竹囲氏の論文を見て、声をかけたことがきっかけだ。

竹囲氏が発表した論文はコンビナートの高所点検ロボットについて。
コンビナートと風車の点検はどちらも高所で行われるため、人間には危険性が高い。
風車の点検を機械化できないかと考えていた浜村氏は、ある時コンビナート点検ロボットについて書かれた論文を見つけた。
熟読をし、このロボットの技術を風車点検にも使えないかと考えたという。そして著者である竹囲氏にコンタクトを取ったことが始まりである。
竹囲氏は浜村氏と共に、風車点検ロボットのプロジェクトを2015年10月にスタートさせ、その後にハード製造を行っている株式会社クラフトワークスさんが開発に2016年に加わった。
最初はサーフボードを風車の羽根に見立て、ダンボールで形を作ったロボットを上から紐で吊り、どう動かせば羽根に沿ってロボットが点検できるのかを思案することから始めた。

竹囲氏「ダンボールで形をつくり、その次には木で作り、アルミフレームと、徐々に素材の強度を上げ段階を踏んでしっかりした形を作った後、クラフトワークスさんへバトンタッチしました。
クラフトワークスさんはちゃんとしたハード屋さんなので、部分部分はこうしたほうがいいとお互いアドバイスをしながら作りました。
ただ、浜村さんが依頼していて、現場を一番知っているのも浜村さんですから、彼の意見も多く入っています。
現在、風車点検ロボットに使用されているソフトウェアの殆どは、私が在籍している弘前大学で開発したものです。
ハードとソフトウェアを接続する電子回路も初めは弘前大学で開発したものが使われていました。
ハードとソフト、どちらを担当したかといえばソフト面ではありますが、ハード面の機構開発にも多く関わっていて、クラフトワークスさんと弘前大学のアイデアが合わさってできた形が今の風車点検ロボットです。
基本的な原理は最初の原型からそんなに変わってません。」

エジソンが目標になった瞬間

風車点検ロボットの研究開発を行っている竹囲氏だが、いつからロボットに興味を持っていたのか。
聞いてみると、竹囲氏自身も覚えていないくらい幼い頃からロボットに興味があったそうだ。
動くものが好きであった竹囲氏は、幼稚園の頃からダイナブロックで当時見ていたガンダムの製作、木材や紙粘土を使用し、工作を行っていた。
いつ工作を始めたのか、ロボットに興味を持ち始めたのかは覚えていないが、小学2年生の時、エジソンの伝記を読み、竹囲氏の心境が大きく変わったことは鮮明に覚えているという。
エジソンが発明した電灯のように世の中に影響を及ぼせるような物を作りたいと考え始め、その時に物づくりの道に進むことを決意する。

その後、筑波大学に進学し、物づくりを行うため基礎工学を専攻した竹囲氏は機械や電気電子について学んでいた。
そんな時、大学一年生の授業で自由にロボットを造り、表する機会があった。
授業をきっかけにロボット製作に関わりを持ち、竹囲氏はロボットについてもっと勉強をしたいと考え、当時専攻していた基礎工学よりも、ロボットについて総合的に学べる、工学システム学類に学部を変更し、本格的にロボットの研究を始める。
研究室もロボット関連であり、動的に動く劣駆動ロボットの研究や全方位カメラの画像処理など、同じ研究室でも全く違うテーマを研究するなど、幅広い分野の研究を行っていた。

大学院卒業後、竹囲氏は国や県の研究所を渡り歩き、筑波大学や成蹊大学で助教に就任する。
研究内容は石油コンビナートの点検ロボットの研究やセグウェイのような移動ロボットの研究、自動ナビゲーション、触覚のメカニズムの解明など様々だ。
あらゆるところで多様な研究を行ってきた竹囲氏は、今までの研究を生かし風車点検ロボットや、現在並行して研究開発を進めている除雪ロボットにも力を入れている。

ロボットで誰でもできる仕事に変わる

世の中にある再生エネルギーとして注目されている風力発電は、温暖化の原因でもある二酸化炭素を排出しない。そのことから環境に良いとされているため、促進する動きがある。
しかし、風車を設置して電力を発電するだけということはなく、設置してから維持することが大変なのだ。
風車を設置する場所は基本的に風が強い場所であり、羽根の先端は180Km/h、秒速50mほどで空中を回転している。
そして常時回っている風車の羽根は雨粒や空気中の微量な塵に当たってしまうため、表面の塗料が削れ、傷んでいく。

風車の羽根が傷んでしまうと発電効率が落ちていき、傷んだ所から羽根が落下してしまう危険性がある。
そのような事故を起こさないためにも点検は欠かせない。
今までは人を使って点検を行ってきたが、人を使うことに二つのデメリットが存在している。

竹囲氏「デメリットの一つ目は高所のため簡単に仕事ができないということです。そして高所の点検方法が二つあります。
一つは、特殊な資格を持つ人が風車に登って、風車にぶら下がりながらブレードと呼ばれる風車の羽根を人の目で点検していく方法と、もう一つは、高いところまで伸びていくクレーン車を持ってきて、点検していく方法です。
クレーン車を入れる場合は、風車が設置してある地盤が重みで傷まないように地面に鉄板を敷くため、時間もかかりコストもかかります。
上げられるデメリットは、人命に危険があり、コストと時間がかかるということです。

そしてブレードの導通点検は2017年に法律で義務付けられ、数年に一度は行わなければいけなくなりました。
そのためまずは導通試験と我々が呼んでいる点検をロボットにさせることから始めました。
風車は背が高いので雷が風車に落ちた時、エネルギーを逃がすために避雷針が内部に備わっています。
風車の中から地面へと伸びている動線がもし切れてしまった場合、その場所に雷のエネルギーが吸収され破損の原因になります。
テスターと呼ばれる電流電圧計を使い、風車内を通っている導線と地面に伸びている導線をテスターで繋ぎ、切断していないかを点検します。」

風車の先端付近には、導通試験用の円盤があり、剥き出しになっている。
その円盤にテスターの先端を繋げ、そのまま地面に降りてもう片方の先端を繋げるといった簡単な作業だが、風車のナセルと呼ばれる風車の中心部分までの高さは大体70mはあり、そのような場所で人間が作業を行うことは大変危険だ。
そこで点検などの簡単な仕事はロボットにさせ、修繕などの難しい作業は人間が行えるようにした。

ゲームコントローラではなく、外で作業することを前提として、防水加工が施されたタブレットでロボットを操縦し、カメラと蜘蛛のような足を使いながら、ロボットは風車を登っていく。
腕の先端にあるカメラで導通の円盤を見極め、テスターを通して繋がっているかを確認でき、点検ロボットで導通試験をロボットに行わせることに成功した。

現在は、風車に雨粒や塵が当たったことにより起こってしまう塗料剥げや凹み、傷などの修理が風車点検ロボットで出来るように研究を進めている。

風車の情報は企業秘密

風車の維持には時間とコストがかかっていたが風車点検ロボットによって、風車を所有しているユーザにはコスト削減を、風車の点検を行うユーザには安全を提供できるようになった。
風車点検ロボットを利用することで、風車を所有している人は自分たちで点検することも可能となり、重篤な損傷が見つかった場合は専門の方を雇うといった、コスト削減。
高所作業を仕事にしているユーザは風車を所有するユーザから管理を全て任されていた場合、風車に登らずとも点検が可能となり、危険が減る。
ロボットを使用することで、風車点検作業が、安くそして安全に行えるようになった。
そして、再生エネルギーとして温暖化の影響である二酸化炭素を排出せず、環境にいいとして注目されている風力発電事業の促進にも繋がっていくのだ。

しかし、研究というものには困難がつきものであり、風車点検ロボットも最初からスムーズに計画が進んでいくことはなかった。
他のロボットを開発する時と違い、情報が全くないのだ。
情報は共有されず、羽根の形や高さ、重さ、厚さや風車が取り付けられている設置場所も全てわからないまま開発に取り組んでいた。
関係者とともに視察へ行けることもあったが、現場へ行ったとしても目で見たものしかわからない。
風車の羽根の形、重さは風車メーカー、年代ごとに違うため情報が膨大でありながら共有されないことが一番大変であったそうだ。

竹囲氏「点検ロボットの動きを全部の羽根の形に合わせて動かすということはとても困難なので、ロボットの腕の関節にバネとダンパーを取り付けてパッシブに動くようにしました。受身的に動作が変わる仕様です。
ロボット自身がアクティブに動きを変えることは行っておらず、押されたら腕を動かすという、ブレードの形状に合わせて変わるのでロボット自身が現状は知能を持って動きを変えていることはありません。

そもそも風車メーカーにとっては風車の羽根形状といった情報が売りなので情報をバラしてしまったら大変なことになります。そのため、大体がこんな形をしているのではないかと想像で作るのが大変でした。
大体のロボットはゴールを設定してあって、仕様が決まっていくのですが、それが風車点検ロボットにはないんです。完全に試行錯誤の状態でしたね。」

希望のループを作り出す

竹囲氏は風車点検ロボットに新たな機能を加えるため、さらなる研究を行っている。
導通点検が行えるようになった風車点検ロボットは次のステップに上がる為、現在NEDOの【ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業】に向け、研鑽を積んでいる。
風車点検ロボットの次の目標は、簡単な傷を修理する研磨塗装の作業を行えるようにすることだ。
それにトヨタ通商は風車のコーティング材や塗料を販売している会社だ。塗料を塗ることで風車のブレード表面が強くなり、羽根が削れにくくなる塗装を販売している。
今までは点検にはコストがかかりすぎるため、頻繁に点検を行っておらず、防止剤もその時にしか使われてこなかった。
しかし、風車点検ロボットと塗料を使うことで頻繁に安く、簡単に点検が行えるようになった。
竹囲氏に風車点検ロボットの開発を依頼したのはビジネスのためであり、風車を普及させることに繋がっている。
そして風力発電事業を促進させることで世の中が良くなり、風車維持のために使われる風車点検ロボットを更に進化させていきたいと竹囲氏は語る。

竹囲氏「私は世の中にないものを生み出し、世の中で使ってもらったらどうなるのかという知的好奇心を満たすために研究を行っています。風車点検ロボットも、風車に登って周囲を点検補修するロボットはどのようにしたら出来るのか、何が社会に受け入れられるのかという興味が全てです。

発明することで世の中を少しでも良い方向に変わるものを生み出したいです。
私の夢はエジソンのような発明家になること。
何が役に立ち、何をやれば楽しいのかをずっと追求して、社会の役に立てばさらに良いです。
ずっとやり続けるというのが私の志でもあります。

良いものが造れたとしたら、誰かの出来ることが増えるかもしれない。
出来ることを増やし、次の希望を見つけられるようなものを造り、希望が希望を生み出していくような、そのループがどんどん大きくなるものを造りたいです。
そのためには、全力で自分のセンスを研ぎながら、やりつづけて向かうだけです。よい方法やアイデア、物というのは考えているだけで見つかるものではないと思います。理屈だけではない。
がむしゃらにやるという訳ではなく、自分が自分の感覚を研いで将来に役立ちそうな、自分が楽しいと思うものを突き詰めて、明らかにして、開発し、実装してフィードバックを繰り返す。
そうすることで何か見えてくるものがあると思いますので、ずっと続けていきたいです。」

自分の面白さを見つけ、それを掛け合わせ、融合していく

竹囲氏からこれからロボットに携わりたいと考えている方々にメッセージを頂いた。

竹囲氏「これからロボットは当たり前になってくると思います。
今までと同じようなロボットの研究をしていくのではなく、他のものと融合して、掛け合わせていくことが大事になってきます。私が特にやらなくてはいけないなと感じでいるのは生物、分子です。
どんどんロボット化が進んでいく社会になっていくので、好奇心を旺盛にして、たくさん勉強し、様々なものとロボットに合わせていき、自分の楽しさや面白さを見つけて欲しいです。
勉強をして色々合わせてみたらどうなるのかをやってみて、たくさん経験を積んでください。
体験や経験をしなくともエベレストの頂上や宇宙の様子はネットで見れてしまう時代ですが、大事なのは情報を個人で考え、経験することだと思います。

この時代だからこそ、自分自身で体験して、考えることが何よりも大事だと思います。
そしてその体験や感性から新しいアイデアや知的好奇心が結びつくと考えています。

そういった経験を沢山して、自分にとっての面白さは何かを見つけてください。」