プロフィール
福島工業高等専門学校
物質工学科所属 4年
鈴木琴乃さん・門井真理乃さん
理系女子の挑戦
福島工業高等専門学校に通う物質工学科所属の鈴木琴乃さんと門井真理乃さんは2人でロボット開発を行っている
チームを結成し、知能ロボットコンテストに初出場したのは2016年の2年生の時だ。
2018年度4年生となった2人は3度目の出場となる。
知能ロボットコンテストとはロボットが自律して動き、競技ステージに散らばった三色のボールを色事に分けられたカゴに入れる競技だ。
審査基準は、全てのボールをカゴの中に入れることができるかという正確性と、ロボットが全てのボールを指定のカゴまで入れるタイムである。
その為、間違えることなく全てのボールを指定通りのカゴの中に入れる、かつそのタイムが速ければ速いほど審査点が増すといった競技の採点方法である。
競技コースとしてチャレンジコースとマスターズコースの2コースがある。
チャレンジコースはボールのみを使った競技だが、マスターズコースは三色のボールの他に、空き缶、ペットボトルも使用され、それぞれは指定のカゴや場所に置かなければならない。
鈴木さんと門井さんは昨年度チャレンジコースにて準優勝という高成績を収めた。
2人は次の段階へステップアップするために、チャレンジコースより難関なマスターズコースに挑む事にした。
先輩のロボットに魅せられた
そもそも門井さんと鈴木さんが知能ロボットコンテストに出場することになったのは、二人が所属している愛好会の先輩がきっかけである。
先輩たちが開発していたロボットに魅せられたそうだ。
福島高専で開発された数々のロボットを体験入学、部活動紹介、そして実際にロボット開発を手伝ったことで、2人はロボットを開発する楽しさ、面白さを知った。
鈴木「高専に入った時は全くロボットに興味がなかったのです。
私たちが所属している分子生物学という愛好会に私はなんとなく面白そうだなと思って入ったのですが、そこでは先輩たちがロボット開発を行っていました。
私は先輩たちの手伝いをしながら自分のやりたいことを見つけようと思って手伝いをしていたのですが、先輩たちの手伝いが面白くて、自分でもロボットを作りたいと思ったのがきっかけで、真理乃さんも同時期に入って同学年ということもあり一緒にやることになりました。」
門井「私はロボットにも研究にも興味がありました。
部活動紹介でもロボットと研究もやっているということを知ったので、最初は研究をすることが目的で入りました。でもロボットにも興味があったので、先輩の手伝いをしつつ、所属している愛好会が毎回出場している知能ロボットコンテストにも連れて行ってもらいました。そしてコンテストを見て、すごく面白そうで楽しそうだと感じました。そしたら顧問である天野先生にそう思うなら琴乃さんとやってみる?と言われました。
その後、私と琴乃さんでロボットを開発して2年生から出場しました。」
ロボットに遊び心をプラスして
二人は同時期にロボット開発を始め、アイデアを形にしていく。
そして思い通りに動かすという楽しさを知りながら、現実世界で行うことの難しさを知った。
初めてだらけの二人のロボット開発は、彼女たちを指導する分子生物学愛好会顧問・天野仁司教授や先輩たちに助けられながらも、着実にロボットが形作られた。
門井「これは2016年に開催された知能ロボットコンテストに出場した【きゃりーペンペン】です。
ですが、なかなか思い通りに動かなくていい結果が出ず、悔しい思いをしました。それでこのロボットを進化させようと考え出来上がったのが昨年度の知能ロボコンで準優勝した【きゃりーぺんぺんW】です。」
きゃりーぺんぺんWは風でボールを足元に集め、内部に設置されているベルトでボールを吸い上げる形式だ。三色の判別は明るさセンサーで行い、3箇所に仕分けする。そしてハード担当である門井さんの遊び心の一つとしてきゃりーぺんぺんWには雪だるまが描かれている。
このきゃりーぺんぺんWで昨年度の知能ロボットコンテスト・チャレンジャーズコース準優勝を果たした2人。
そして今年度マスターズコースに出場するため新たなロボットを開発した。
ロボット名を【ぽち丸】といい、犬をモチーフにしたロボットである。
ぽち丸は今までのロボットのアイデアを集結させ、再構築したロボットだ。
昨年度に開発したきゃりーぺんぺんWで使用したベルトの応用に加え、ロボット内部に新たな機能も取り入れた。
マスターズコースの競技はチャレンジャーズコースよりも空き缶やペットボトルなど、ボール以外のものが多く、それらを指定されたカゴの中に入れなければならない。
当初は犬のロボットを二台用意してボールを取るロボットと、空き缶やペットボトルを取る予定であったが、2台だとスタート台に入りきらず、サイズオーバになってしまう。
そこで犬型ロボットをスタート台に乗せた時に余るスペースを使用し、犬の小屋ロボットを開発。
小屋は屋根になっているシーソー部分で空き缶をキャッチして回収し、ペットボトルは小屋の柱に取り付けられたハンドで掴む。
ボールで作られたピラミッドは小屋内部に取り付けられたアクリル板を差し込み、下から掬い取るように回収し、ゴールへと持っていく。
犬型ロボットはステージ台に散らばったボールを回収し、指定のゴールへ入れるという分担作業だ。
小屋型ロボットはステージ上に散らばったボール以外のもの、空き缶や、ボールで作られたピラミッド、ペットボトルを新たに取り付けた機能によって回収する
そして、今回のぽち丸でも門井さんの遊び心として肉球や骨のマークがロボットや小屋のデザインに使われている。
鈴木「2日間かけて行われる知能ロボットコンテスト1日目に予選落ちしてしまったのですが、敗者復活選があり、その際に高得点を出すことができました。競技点数が40点台と自分たちの中では一番出来ていました。けれど2日目はちゃんと動いてくれるか不安でした。ぽち丸はきゃりーペンペンWよりも制作時間がかなり短く、大会前に最終調整ができなかったんです。そのことが不安の要因で3時くらいまで泊まっていたホテルで調整を繰り返し行っていたのですが、大会中という焦りからかうまくいかず、最後の調整も満足にできませんでした。
大会の日程が発表された日から大会の応募期間の間が準備期間となり、日程を見れば準備期間は長いのですが、学校の課題や学校側から任されていた仕事もあり、ロボットに当てられた時間は殆ど土日や長期休暇でした。」
時間が取れないという苦労の方が2人には大きかったそうだ。
諦めない心
苦労の連続であったロボット開発であったが学んだことも多く、嬉しかったことも多い。
ハード担当である門井さんは平面から立体になる工程の組み立て、組み上がったものが実際に動いている様を見られた嬉しさや、そこにシステムが組み込まれた事で一から自分が作り上げたものが動く楽しさと、メンテナンスの大切さを知った。
門井「ロボットを設計する時に2DCADを使うのですが、平面だったパーツを組み立ててやっと立体になり、動くことがわかって嬉しいと感じました。頭の中でイメージした物が現実世界に出てきて動いている姿を見て、また新しいアイデアも浮かぶんです。
そしてそれを付け加えて立体になればなるほど達成感が得られます。
しかし、造って終わりというわけではなく、もちろん後々のメンテナンスも重要だと感じました。
きゃりーぺんぺんなどはメンテナンスを怠ってしまうとネジが緩んでしまったり、ぽち丸はちゃんと手入れをしなければ錆びてしまう可能性もあるので、確認作業を何度もすることがやっぱり大切だと学びました。」
システム担当である鈴木さんは、プログラムを正しく記述すれば、その通りに動いてくれることに感動を覚え、バックアップを残しておく大切さを知ったそうだ。
鈴木「単純に命令するとその通りに動いてくれるのが、最初は本当に嬉しかったです。
先輩たちにプログラムについて色々教えてもらいながら、全部自分で書いたプログラムでロボットが動いた瞬間は一番嬉しかったです。
そしてプログラムを書く上で重要なのはバックアップを取っておくことが大切だと学びました。
以前、新しい動きを入れようと思った時に違う部分や一番重要なプログラムを消去してしまって動かない時がありました。そこでバックアップの重要性を感じ、今後の教訓で心がけようと感じました。」
そして2人とも共通しているのは、これがダメでも次の方法で頑張ろうという、妥協しない精神である。
妥協しない、諦めない事で納得のいくロボットを作り上げる事ができるのだと二人は身をもって教えてくれた。
失敗したとしても他の方法を見つけ、挫けずに納得のいくロボット開発をしていき、取り組んでいきたいと話してくれた。
楽しめる、万人に受け入れられるロボットを
2人は卒業したら大学へ進学すると話しており、2人ともモノ造りに携わっていきたいそうだ。
福島高専で経験したロボット造りをきっかけに鈴木さんは今まで行ってきたプログラミングや現在授業で学習しているプログラミングも楽しいとのこと。
授業で学習しているプログラミング言語は、今までロボットのプログラミングで使ってきたC言語とは全く違うものだが、プログラミングを行うきっかけをくれたロボットに将来的には活かしていきたいそうだ。
鈴木「将来は技師の方やロボット開発をする人に役立つような部品を造りたいと考えています。
そしてその部品を使って地球に優しいロボットを開発したいです。
災害現場とかでロボットを使った場合、もしロボットがそこで壊れてしまったらゴミになってしまいますよね。そういったゴミを自然に還せるような、自然が分解してくれるような邪魔になら無い地球に優しいものを造りたいですし、万人に受け入れられるようなモノを造りたいです」
門井さんは、ロボットの面白さを下級生に伝えていきたいと話してくれた。
門井「明確にしたいことがあるわけではないのですが、新しいものを開発したいです。
でも私が高専を卒業するまで、知能ロボットコンテストに出ている間に影響を与えられたらいいなと思います。
大会を見に来ている小・中学生に私たちが楽しんでいる姿を見て、自分たちもロボットを造りたいと感じて欲しいです。
ちょっとした興味で大会に来た人たちが、自分たちも開発してみたい、ロボットに携わってみたいとそういう想いが芽生えて、どんどんロボットに興味がある人が増えてほしいです。
私も先輩が開発したロボットに魅せられたので、自分も影響を与えたいと考えています」
現在社会では、ロボットや人工知能に仕事を取られてしまうという恐怖や、機械だからとロボットに嫌悪感を感じてしまい、受け入れられない人もいる。
そのロボットを受け入れることができない人たちの現状を2人は変えていきたいそうだ。次世代に影響を与え、ロボットに興味を持って欲しい門井さんと、ロボットの認識を変えていきたい鈴木さん。
2人のこの「ロボットの認識を変えていきたい」という言葉はロボットの良さを広め、開発する楽しさと、動かせる面白さを知ってほしいからこその“願い”ではないかと私は考える。
ロボットの認識を変えていけば、自ずと興味を持つ人も増えていき、技術も進んでいく。
様々な人の考えや価値観を取り入れたロボットを開発することで、私たちに寄り添って共存できるようなロボットを開発することも夢ではないのではないかと感じている。
それはまだ学生である2人であるからこそ、柔軟な発想力で人間と共存が出来るロボットを生み出す事ができるのではないだろうか。
2人は今はまだ社会に縛られることなく、自分たちの作りたいモノを作ることが出来る環境にあり、今後の交友関係も広がっていく。そうすれば、様々な価値観にも触れることができる。
だからこそ、次世代を担う二人には、自由な発想で今後もモノ造りに携わっていって欲しいと感じた。
今後の意気込みとしては、まず来年の知能ロボットコンテストに向けてロボット開発に注力したいそうだ。
2019年には福島高専5年生となる2人は、大学2年と同じ年だ。
福島高専は5年制であるため、大学進学に向けて一層忙しくなり、ロボット開発に時間が4年生の時以上に取れないと話しているが、今度こそ優勝を取りたいという。
門井「来年最後になるので要望を出し合って極力全部できるように、自分たちのアイデアを詰め込んだ満足のいくものを造りたいです」
鈴木「最後の大会なので自分たちの満足できるものを造って、優勝したいです」