【ダンス×ロボット】ダンス×きかい=パートナーを得る

プロフィール

東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻
教授 小菅一弘
1997年4月 現在 東北大学 教授(工学研究科)
1995年3月 1997年3月 東北大学 教授(工学部)
1990年9月 1995年3月 名古屋大学 助教授(工学部)
1989年9月 1990年8月 Visiting Research Scientist
Massachusetts Institute of Technology
1982年4月 1990年8月 東京工業大学 助手(工学部)
1980年3月 東京工業大学 大学院理工学研究科制御工学専攻修了
1978年3月 東京工業大学 工学部 制御工学科卒業



ロボティクス研究を製品化へ繋げる“社会的価値”のつくり方

2009年当時、科学技術振興機構のCRDS(研究開発戦略センター)の電子・情報・通信分野の特任フェローを
務めていた小菅氏は、専門家達とロボティクス研究がどのように社会に役立つのかについて議論する機会を
持った。

ロボット研究が社会に貢献できる価値として、「個人レベルの価値」、「コミュニティレベルの価値」、「地球レベルの価値」の3つを取り上げ,それぞれの目標を「生活の質」、「産業競争力」、「地球規模問題の解決」とし、ロボットはどのようなサービスを提供することによって、社会に貢献できるかについて議論する。

更にロボティクス研究領域を「社会価値レイヤ」、「サービスレイヤ」、「基礎要素レイヤ」の3階層に分けて議論を進めた。
基盤要素レイヤというのは、従来から行ってきた、ロボットの運動学・動力学や、マニピュレーション、モビリティ、アクチュエータ、センシング(Sensing and Machine Cognition)、人工知能(Real-world real-time intelligence)などのロボットの基礎研究の部分である。
そして、基礎要素レイヤを社会価値レイヤに結びつるためには、実際にサービスを提供し、社会的に価値を提供できるサービスレイヤのロボット開発が必要となる。

基盤研究を社会的な価値に繋げるためには、例えば介護分野など、特定のドメインの研究をしながら、同時に基盤研究もすることによって、初めて世の中の役に立てるロボットが出来るという結論に至る。
ロボットで必要なサービスを実現するためには、足りない基盤技術の研究開発をすることが必要となるが、このプロセスによって、基盤研究の成果がニーズに応えるとともに、サービスに必要な実ニーズを追求することが基盤技術を充実することになる。

小菅氏「現状のロボット開発では、ターゲットを定めると、単に基盤研究の成果を集約してロボットを造ろうとすることが多いのですが、それでは最終的に製品化に繋がらず、プロトタイプを造って終わってしまいます。
製品化に繋げるためには、ユーザへ提供する価値と、その価値をロボットがサービスとして提供するために必要な技術、そしてビジネスとしてサステナブルなエコシステムを造るための仕組みが必要です。

また、ロボットは必要な技術を持ち寄っただけでは完成させられないため、必ず新しい高度な要素技術の開発が必要になります。
例えば、高齢者介護のためのパートナーロボットを造るためには、介護の現場固有の専門的な知識がなければ、本当に現場で利用してもらえる人の役に立つロボットはできません。
初めて知る現場のニーズに応えるには、新たな要素技術の研究開発が必要になるということです。
現時点では存在しない新たなモノを創り出そうとする行為そのものが、ロボットの基盤技術、未来のロボット開発、そして製品化へとつながっていくのです。」

世界初!相手の意図を推定して動く社交ダンスロボット

今回ご紹介する社交ダンスロボット(PBDR : Partner Ballroom Dance Robot)は、人間と協調して社交ダンスを踊る近未来型のロボットだ。
力学的な相互作用を通じて、人間とロボットが協調できるパートナーロボットの実現を目指している。

社交ダンスロボットの前身は、2000年頃に開発した協調型ロボットのミスターヘルパーとドクターヘルパーである。
特徴は、一台あるいは複数のロボットが人と協調して作業をするという、当時としては画期的なロボットだった。
しかし、ロボットが人の意図をどのように理解し、手伝えばよいのか分らなかったため、簡単な仕事しか出来ないことが課題だった。

この課題を解決するために、まずはロボットが相手の人の意図を推定するためのシステムが必要だった。
例えば、サザエさんのお父さんが「おーい」と呼んだ時、お母さんの対応は、お父さんのシチュエーションと声のトーンによって変わる。
お父さんが書斎で書き物をしている時は「きっとお茶が欲しいのだろう」とか、朝なら「新聞が欲しいのだろう」といった、人間で言うところの“阿吽の呼吸”が意図を推定するロボットシステムに近い。

ユーザの意図を推定することをロボットで実現するためには、ユーザが今何をしていて、次に何をどのように手伝って欲しいのかを知る必要がある。
その為には、日常生活の空間にロボットを置き、ユーザのことを沢山知り、手伝えるロボットを造る必要があるが、安全性の観点からも実験するにはハードルが高かったと、小菅氏は話す。

そこで小菅氏が考えひらめいたのが、社交ダンスロボットだった
そもそも社交ダンスというのは、男性が女性をリードし、決まった組み合わせのステップを重ねて踊る。
そして、男性がどのステップを踏むか決めて、人とぶつからないように女性をリードする。
女性はステップの切り替えが起こる時に、次にどのステップになるかを男性の動きから推定して踊る。
工学的に言うと、相手の意図を推定し、相手の動きとの協調で成り立っているダンスである。

そうして完成したのが、第1号機となる女性型ダンスロボットだ。
特徴はユーザの意図を推定し、ユーザの動きとの協調でダンスするロボットだ。
このロボットはNEDOのプロジェクトで採用され、日本国際博覧会(愛知万博)のステージでのデモンストレーションをし、当時の人々の関心を集めた。

小菅氏「デモンストレーションでは最初のステップは同じステップで、それ以降は推定しながら動いていました。
大変だったのは、ステージの床面がフラットではなかったためロボットが暴走したことです。
通常ステージの床にはケーブルを埋める溝があって、その上に板と敷物が敷いてあります。
しかし、その段差は当時のロボットにとって問題で、その上を通るとガタンガタンとロボット揺れます。
そうすると、ロボットにショックが加わり、腕の位置に大きな誤差が生じるので、それを元の位置に戻そうと一斉にサーボが動くためバッテリーに大きな電流が流れ、瞬停して計算機が落ち、システムが再起動してリセットしてしまう。
何度か暴走しましたが、ステップの運動パターンを小さく変更するなどして、10日間のデモンストレーションは無事終了しました。」

その後、2005年のTIME誌で“2005年の最も驚くべき発明”として特集され、グッドデザイン賞を受賞する。
「数年前にはロンドンの地下鉄に貼られている、TIME誌の広告にも使われていたようで、イタリアの友人が写真を撮って送ってくれました。」と小菅氏は笑顔で話してくれた。

世界初ダンスティーチングロボットの誕生

日本国際博覧会後のある日、社交ダンススクールの方から相談をうける。
「日本の社交ダンススクールの生徒は女性が多くて男性が少ないため、男性型ダンスロボットを造れないか」というものだった。
小菅氏「男性型ダンスロボットは女性型ロボットよりも難しいんです。
研究室にいた留学生の教え子であるフェリペ君が、果敢にも男性型ロボットの研究開発にチャレンジしてくれましたが、途中で行き詰ってしまいました。
しかし、フェリペ君はドクター論文を書かなくてはいけなかったこともあり、コンセプトであった“男性型ダンスロボット”を、ダンスを教えるロボット“ダンスティーチングロボット”に変えることを提案し、研究を続行しました。

しかし、ダンスティーチングロボットの研究にも難題がありました。
普通に考えれば、女性ユーザとロボットがダンス中に他のダンスカップルと衝突することを、危惧される方が多いと思います。
だが、他のダンスカップルがこの辺りに来るだろうと予測することは可能で、モーションプランニングなどの技術を使えば、ロボットと他のカップルが衝突することはほぼ回避できます。
難しいのは、どのように女性ユーザへロボットの意図を伝えれば良いかということでした。
ロボットはステップを選ぶことはできるんですが、選んだステップをどのように相手に伝えればいいのかが分からなかったんです。」

小菅氏「社交ダンスを研究してみると、ライズ&フォール(上昇下降運動)という動きがあり、ステップが変わる時に、その時女性の体がぐっと上げられ、ニュートラルなポジションになります。
その時に力を加えられるとどちらでも動けるようになることが分かりました。
そこで、ロボットがステップを切り替える時、社交ダンスのライズ&フォールを利用し、女性ユーザを体が上がった状態の時にリードする方向に力を加えてみることにしました。

実験した結果、ロボットが女性ユーザにステップを伝える時に、ライズ&フォールの上下動がある時の方が、ない時に比べてちゃんとステップを伝え、女性ユーザがリードされて動くことが分かりました。
その後、心理学の先生にも協力してもらって被験者実験を行い、この方法がダンスロボットにとってベストだという評価を得ました。

2017年にはユーザの成長段階に応じて、ダンスを教えられる新機能を追加しました。
ダンスを教えるには、ユーザが今どれくらい上達しているのかを知る必要があります。
そのために、運動の速度情報を元にユーザのスキルを評価し、評価レベルを五段階に分けました。

初めてダンスをするユーザは優しい評価基準でエンカレッジし、学習が進むと評価を厳しくする。
そして、ユーザの習熟具合、上達具合の情報を収集し、評価結果をフィードバックします。
また、その時のユーザのスキルの状態に応じて、フィードバックの仕方も変えます。
例えば、ユーザが上達してない時はステップパターンが決まっていない事が多いため、ロボットがこういう風に動くんだよと、ユーザに型をしっかり教えます。
上達してきたら、手を添える程度にといった感じです。

余談となりますが、フェリペくんはダンスティーチングロボットを世界で初めて開発したということで、地元のコロンビアで有名人となりました。」

ロボット研究の壁

これまでのダンスロボットの研究で立ちはだかった壁は、ソフトウェアのアルゴリズムだった。
特に女性型ダンスロボットで、男性ユーザのステップの推定方法がとても難しかったと話す。

小菅氏「ロボットの上半身に加わる男性ユーザの力の履歴から、こういう力が加わっているから、こういうステップになるんじゃないかと推定しようとしたんですが、力って一定じゃなくて、グラフで表すとぐちゃぐちゃなんです。
その中から、どうやってパターンを見つけ出すかというのが難しかったです。

悩んだあげく使えるかもしれない、と思いついたのが機械学習でした。
今となっては古臭い機械学習の一手法ですが、 “隠れマルコフモデル”という手法を使ったら、ある程度の推定が出来きることがわかり、壁を乗り越えることができました。

そして壁と言えばもう一つ、日本のロボット研究の壁です。
いま、日本ではロボットの実用化研究は、応用研究だと言って評価されないので、みなさんちゃんとやらないんです。
日本のロボット研究は実際の現場の問題を解くことをしないので、真に必要とされているロボットの基盤研究を見つけられないのです。
現場に行かないで研究している方が、現場で使えますよと言うけれど、そのままでは使えないものが多い。
この実問題に挑戦するロボット研究の少なさが、現在の日本のロボット研究の一番の壁かもしれません。」

ダンスロボットの基礎研究を、実際問題を解決するロボット技術へ

小菅氏「ダンスロボット研究の目的は、人と協調できるロボットの基盤技術を開発し、実問題へ反映させることです。
例えば、私達が現在研究している作業支援ロボットは、工場内で組み立て作業を行う作業者に、必要な部品や道具を届けることが目的で、ロボットが人の動きや、いる場所を見ながら必要な時に、必要な部品やその作業に必要な道具を作業者へ届けます。
このロボットには、女性型ダンスロボットの、男性が次どのように動きたいかという意図を推定する、行動予測の技術が活用されています。」

また、ダンスティーチングロボットは、例えばロボットが手を添えてダンスを教えるような、どのように人をリードするかというフィジカルなヒューマンロボットインタラクション技術につながります。
この技術は、少し未来の話になりますが、介護ロボットなどに応用し、活用して行きたいと考えています。

例えば、介護施設の利用者さんを抱き起こそうとするとき、利用者さんに触れる必要があります。
また、単にすっと抱き起こすことはできないので、ロボットが人をリードしないといけない。
その基礎技術となる、“人が何をしたいのかを推定”し、“ロボットがどういう風にしたいかを人に伝える”と言う2つの技術がダンスロボットの研究から得られています。」

夢を追いかけ、未知への好奇心に満ち有れた少年時代

これまで好奇心で、面白いロボットをつくり続けてきた小菅氏だが、子供のころからユニークだった。
小学生の時、テレビで大人気だったサンダーバードに出てくる、ジェットモグラというマシーンが土の中に潜って行くのを見て、カッコイイと思いプラモデルを買った。
そして、マシーンが土の中に潜って行くことを夢見てプラモデルを完成させたが、潜っていかないことが分かると、ものすごくがっかりするというユニークな少年だった。

中学校なっても動くものを造りたいという好奇心は収まらず、模型製作用のバルサという柔らかい木を削って模型を作り、ギアボックスをつけ、動く模型を造った。
家で自動車の模型を造って走らせた時、和室の敷居で電池が外れたのを見て、この問題を解決するためにはサスペンションが必要だと考え造っていたという。

その後、東京工業大学の制御工学科に進む。
大学では当時から普通ではできないものをやることに興味があったため、現代制御理論の倒立振子を立てる研究をしている古田勝久先生の研究室に入った。
倒立振子の制御の研究を行い、先輩は二本の倒立振子を立てる研究を、小菅氏は2本の倒立振子を立てて動かすという研究をした。
その後、修士で非線形制御に関する研究を行い就職するが2年3ヶ月で会社を辞め、恩師に誘われ東京工業大学で助手としては働きながら、論文を書き博士号を取得する。
当時、非線形制御を使いロボットの協調制御や遠隔操作の研究をしていた小菅氏は、MITから客員研究員として呼ばれ一年間滞在する。
その後、名古屋大学で4年半助教授として研究を行った。

小菅氏「当時、名古屋大学は12時に駐車場のゲートが閉まるんですが、研究会があるとそれまでに帰れることは少なく、12時になると駐車場から車を出してまた研究室に戻り、研究会を続けるなどしていました。
また、名古屋に移動する前の東京工業大学時代ですが、ある日、大学の我々のいる建物の同じフロアに泥棒が入ったんですが、うちの研究室は何も取られませんでした。24時間ずーっと誰かがいるから泥棒も入れなかったんでしょうね。東京工業大学時代も名古屋大学時代も不夜城と言われる研究室にいて面白かったです。そういう世界でした。」
  
昔、ロボット学会の設立に携わった先生に、“ロボット学なんていい加減なこと言ったから、日本のロボットは発達しないのではないのか”と申し上げたことがあります。
その先生から“お前全然わかってねぇな、ロボティクスには二つの側面があって、工学の側面と科学の側面があるんだ。だからロボット学会という名称にした。”と言われました。

現在、日本のロボット研究者は科学としてのロボティクスの研究をする人が多く、きちんと実問題の科学的な解決を目指した工学をする人は意外と少ないのです。世界的にもその傾向にあります。
そんな背景もあり、“工学としてのロボティクスをちゃんとしたい”というのが私のミッションです。
あと、ロボット学会の名称をロボット工学会ってすれば、 もうちょっと日本のロボットは発達したんじゃないかと思っています。

現在、日本では人口減少、労働人口不足、首都圏一極集中化、過疎化などの社会問題が深刻となりつつあります。
私はミッションを具現化し、社会問題を解決するために、ロボットを産業化し、今まで私に投資をしていただいた以上の価値を、社会に還元して行きたいと考えています。」

ロボットクリエーターを目指す方へ

小菅氏「これからロボットクリエーターを目指す方は、実環境で人と共存・協調して働けるロボットの開発が必要な時代になるため、工学だけではなく、研究開発するロボットのドメインや人のことも理解できないといけません。

新しいロボットの研究開発をするのは本当に大変です。
ロボットの産業応用のプロジェクトに携わるたびに実感するが、様々な技術があってはじめて、ロボットはシステムとして動くようになる。
大学の一研究室のテーマとしては、とてもじゃないけど完結できないことが多い。
だから、様々な物事に興味を持ってもらいたい。

学ぶ時は、初めに1つのことを極めて、次に自分のテリトリーを広げて行ってください。
ロボットの世界で生きて行くためには、1つの事に関しては完全なプロじゃなくてはいけない。
そして、他の分野に関してもセミプロのレベルでいいから、興味を持って世界を広げて行く必要がある。
なぜなら、一つのことに捕われていては、ロボットは造れないから。

最後に、私の大学時代の恩師である森政弘先生が話された言葉を紹介します。
“刃物を使おうとするとき、刃物は切れないところがあるから、持って切ることができる。
全部刃物だったら持てない、切れるところと切れないところがあって、初めて刃物として使える。
そして、刃物は切れるから、それで人を刺せば犯罪になるし、それで手術すれば喜ばれる。“

私もこれまでのロボット研究人生では、良い時も、悪い時もありました。
その出来事を、さっきの刃物の例えと同じように、良い悪いで捉えるのではなく、仏教でいう所の二元性一元論的に捉えることが大切だと考えています。
そして、何よりもロボットって面白いな、と感じる“好奇心を原動力”にロボットの道を突き進んでください。」

小菅氏は未来のロボットを発展させるために、現在ある基盤技術を強化させ、企業や生徒と協力して様々な研究を行っている。
若者たちに技術や知識を継承し、次の未来ある研究者を育てながら、小菅氏自身も自分の夢を叶えるために歩き続けているのだ。
夢を夢のままでは終わらせない、現実の物にするという強い意志はロボットを研究する面白さを知っているからだ。
小菅氏が研究を通して伝えた面白さや楽しさはきっと継承され続けていく事だろうと、私は思った。

そして近い未来、ロボットがパートナーとなっている世界が来るかもしれない。

小菅研究室:http://www.irs.mech.tohoku.ac.jp/

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紹介 さくまみさき

楽しく、驚く記事であり、製作者の言葉が、一人でも多くの人の頭の片隅に残るような記事を書いていきます。

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