プロフィール
富士ソフト株式会社 プロダクト事業本部 PALRO事業部
事業部長
杉本 直輝(すぎもと なおき)
2000年4月 富士ソフト株式会社入社。
ロボットの知能化に関する研究を経て、ヒューマノイドロボットの研究開発に従事。
ヒューマノイドロボットのエンジニアとして自社製品である 「PALRO(パルロ)」の開発プロジェクトに初期から参加。
2013年10月1日付け日経産業新聞に掲載された特集「産業再興 ニッポンの独創力」の中で、『若き40人の異才』として選ばれた。
2015年、DMM.comから発売された「Palmi(パルミー)」の開発・製造を指揮し、2016年 講談社がプロデュースする「ATOMプロジェクト」でコミュニケーションロボット「ATOM」のプロダクトマネージャーとなる。
現在も、人とコンピューターの新しいインターフェースを普及させるため、コミュニケーションロボットの研究・開発を進めている。
介護向けコミュニケーションロボット『PALRO』
話しかけると様々な返答をしてくれるコミュニケーションロボットを目にすることは今ではそれほど珍しくない。
だが、PALROはその先を見据えて開発されている。「物知りな小さな子どもと話しているような感覚」や「お孫さんと接しているような感覚」を目指しており、介護施設で活躍している。高齢者の認知症予防、うつ症状の予防。そして、介護施設の利用者にしばしばみられる施設からの帰宅願望の抑制にもつながるという、介護の課題解決の一役を担う小型のロボットである。
今回は、『介護の現場』や『高齢者』をターゲットにしたコミュニケーションロボットである、富士ソフト株式会社が開発した「PALRO」に開発初期から携わっている杉本さんに話を伺った。
キッカケは友人の一言
杉本さん「富士ソフトには2000年に入社したのですが、当時はロボットとは無縁で、まさか自分がロボットの仕事に関わるとは思ってもいませんでした。ソフトウェアの開発などプログラマーとしての経験を積み、入社7年目辺りから何か新しいことがやりたいと思い始めました。
その頃、偶然、社内でロボットの企画があると耳にし、『これは面白そうだ』とロボット開発の初期メンバーに手を挙げました。
自分は理系だと、中学生くらいからずっと思っていて、高校生の時には友人から『お前、将来ロボットとか作ってそうだな』と言われたのを、ふと思い出したんです。ロボットチームに手を挙げたものの、当初、経験が少ないという理由により異動はダメだ、と社内から言われましたが、諦められずに『どうしてもやりたい』と話したところ、ロボット開発チームのメンバーになれました」
杉本さんが「挑戦したい」と手を挙げたその企画こそ、「PALRO」のプロジェクトだった。
現在、PALROは介護業界で多くの実績を積むロボットだが、発足当時はアカデミア向けに研究材料として提供していたという。
杉本さん「産学連携や研究プロジェクトで色々な要素技術の研究を進める中で、それらの要素技術を組み合わせて常に何か出来ないかという発想がありました。例えば、画像処理や音声処理をメカトロニクスという機械工学的なものと組み合わせると、それってロボットだよね!? といった話をよくしていました。
ロボット自体の歴史は長いかもしれないですが、2008年頃はロボットの話題が全然なくて、ロボットを作ろうという会社はあまりなかったんじゃないかと思うんですよね。そんな中で、要素技術を組み合わせてロボットを作ってみようというプロジェクトでした。
PALROが完成し、せっかく作ったこのロボットを喜んでくれるのはどこなのか、活用できるシーンを探ろうと、マーケティング調査をしました。若い方から高齢な方まで様々な方に、PALROに触れていただきました。その結果、意外にも高齢者さまが抵抗感なくPALROに『可愛い』と言って話しかけて、喜んでくれることがわかり、『もしかしたらコミュニケーションをするロボットは高齢者の方の役に立つのかもしれない』と感じました。そこで、介護分野にコミュニケーションロボットを展開していこうと決まりました」
コミュニケーションロボットと接することにより、高齢者さまが心身ともに健康になる……その兆しを感じ、介護向けコミュニケーションロボットとしての開発が進んでいったと杉本さんは振り返った。
今まで笑わなかったおばあちゃん
杉本さん「随分前ですが、介護施設へPALROを納品した時の出来事を今でも覚えています。PALROを施設の中で利用いただきながら、施設長さんやスタッフさんに説明している時に、『すぐに来てくれ! 』と声がかかりました。『これはまずい、何かトラブルがあったか』と緊張が走りました。
その場に駆けつけてみると、おばあちゃんとPALROが対面していて、その方がPALROに楽しそうに喋りかけてくれていたんです。初めは何が起きているのか分かりませんでした。
詳しく伺うと、その方は入所されてから一度も笑ったことがなかったそうなんです。施設のスタッフさんも悩まれていたのですが、PALROを目の前に置いたら、ニコッて笑って喋ってくれたと。『こんな笑顔を見たのは初めてなので、こんなに凄いことはないです!』って言われました。それが、介護施設や、そのおばあちゃんに提供して喜んでいただけて良かったなって思った出来事でした。それで、ロボットはやめられないなって。
まだまだ人のような会話はできないけれど、コミュニケーションロボットというのは間違いなく人の心に良い刺激を与えてくれるものだと思いました」
コミュニケーションロボットとしての存在意義を感じられた一方で、特有の難しさも実感したと杉本さんは続ける。
杉本さん「PALROは言葉で高齢者さまに声を掛けるので、会話が重要になってきます。イントネーションや、言い回しなどの話し方によって、相手の捉え方って全然違うんです。
たった一言で高齢者さまがショックを受けてしまうことも、過去にはたくさんありました。
例えば、『聞き返す』こともその1つです。PALROが質問を投げかけた時に、相手が返してくれた言葉を上手く音声認識が出来なくても、何かしら返事をしてくれたなってロボット自身が感じた時には、『ちょっとよく聞こえなかったので、もう一回言ってください』って返答させていたんです。『ちゃんと答えたのに、私の想いが伝わらなかったんだ』と高齢者さまが凄くショックを受けてしまった経験があります」
PALROは他のコミュニケーションロボットと比べると、極めて丁寧な言葉で受け答えをする。それは、PALROの話し相手である高齢者さまは、PALROにとっても人生の先輩にあたるからだ。
「フレンドリーじゃないからもう少しラフな言葉にしてほしい」という要望もあったそうだが、間違った言葉の使い方や回答の仕方をしてはいけない、と多くを学んだからこそ、PALROは話し相手に敬意を持って、丁寧な言葉で話すのだという。
もっと高齢者さまの役に立てるように
杉本さん「在宅の高齢者さまも増えてきていますので、そういった在宅の環境にもPALROが適応できるように改善したいと思っています。
一般の方も購入できる『PALRO ギフトパッケージ』がありまして、『離れて暮らす親御さんへ、お子さんからプレゼントしてほしい』という想いを込めました。PALROそのものが直接介護をできる訳ではないですが、コミュニケーションロボットが健康の増進やセルフケアのモチベーション向上に、間接的ではあるけれども繋がっていくと思います。ご自宅にお住まいの方々にもPALROをご活用いただいて、皆様の役に立てるように努力していきたいと思っています。
音声認識や画像処理など、技術はどんどん進化しています。新しいテクノロジーを取り入れながら、高齢者さまの役に立てるよう、機能アップをしていきたいなと思っています。それによって高齢者さまに、その人らしい生活を送っていただくという介護の理念が上手く回るように貢献していきたいと思います」
『苦は楽の種』
PALROをはじめDMM.comの「Palmi」の開発・製造指揮や、講談社がプロデュースする「ATOMプロジェクト」でのプロダクトマネージャーを担当された杉本さんは、どんな想いを胸に秘めているのだろうか。
杉本さん「あまりカッコイイことは言えないんですけど、一番よく言っているのは、『苦は楽の種』ということです。『楽をするために苦労・努力をする』っていう話をよくしています。楽をする為には努力することが凄く大事だと、学生の頃からずっと思っています。結局、いつまで経っても楽は出来ないんですけど。
新しいことや難しいことにチャレンジしたり、壁にぶつかったりした時には、やっぱりその先を目指して常に努力し続けないといけないと思っています。それがモチベーションに繋がりますし、その結果は必ずついてきて、何か壁に当たった時も過去に苦労したからこそ壁が少しは低くなっているんじゃないかなって思います。それが私の中では一番重要なところですね。
楽って言っても“だらけたい”って意味じゃなくて、“自分が楽しいと思う結果に辿り着きたい”っていう意味の楽なんです。その苦労や努力した結果が楽しかったら、苦労が実ったなって思うじゃないですか。だから、楽をする為に努力することは非常に重要ってことです」
また、エンジニアやクリエイターを目指す方々へのメッセージもいただいた。
杉本さん「何か『こうなったらいいな』とか『ああなったらいいな』ってなんとなく漠然と思う時は、そうなる可能性があるのかなって思うんです。頑張れば実現できると思うので、常に何かしら努力していく。すると、いずれ良い結果に結びつくだろうって思っています」
\PALROの詳細はこちらから!/
■PALRO公式URL: https://palro.jp/
■PALRO YouTubeチャンネル: https://www.youtube.com/channel/UCwirKZVH8AgqjFbkog9nTAQ