プロフィール

東北学院大学教授 梶川伸哉(かじかわ しんや)
1996年4月 国立宮城工業高等専門学校(現 仙台高専)機械工学科 助手採用
2001年4月 秋田県立大学 システム科学技術学部 機械知能システム学科 助教授
2004年4月 東北学院大学 工学部 機械創成工学科 助教授
2006年4月 同上 機械知能工学科 准教授
2008年4月 同上 教授 現在に至る
その他
1999年8月 国際協力事業団(JICA)短期専門家として タイ王国パトムワン工科大学 に派遣
2011年9月~2012年8月 ミュンヘン工科大学 Visiting professor

トレーニングとサービスの提供

梶川氏は介護福祉などで使われる支援器具にロボット技術を取り入れ、介護で使えるメカトロ機器の開発を中心とした研究を行っている。
現在は手足を動かせない人の為に舌を使って車椅子を動かすジョイスティック、人間の曖昧な程度を定量化させ、マッサージができるロボットの開発に力を入れている。

ジョイスティックは車椅子に取り付け、四肢が不自由な人の移動手段として利用する。
頚椎損傷など四肢が動かなくなってしまった時でも、舌は運動機能が残る可能性が高い部分と言われている。
移動途中に危険が迫ってきた場合は口で据え、舌で動かしていたジョイスティックが硬くなり、動かしにくくなる。さらにジョイスティックが舌を押し返したりすることで利用者に危険を知らせる機能も搭載されている。
いわば車椅子ロボットが、人の舌による操作を見守ってくれるという関係である。
そして現在は、滑舌の向上、口腔ケアにドライマウスの改善、嚥下障害の治療といった健康維持や舌のトレーニングに応用させるため、更に研究を進めている。

また人間の曖昧な表現を定量化させ、マッサージができるロボットハンドの開発では、人間の力加減や程度表現をロボットに覚えさせ、人間と同じような行動をさせようということで、研究を進めている。
人間であれば力加減は「もっと」、「ちょっと」、「少し」といった曖昧な程度表現でも可能であるが、ロボットで行うには難しい。
梶川氏は初めロボットハンドではなく、移動ロボットを使用し、「もっと」、「ちょっと」、「少し」といった音声の程度表現で動かすアプリケーションを開発していた。
アプリケーションの開発を14、5年前に行っていたが、当時の音声認識ではタイムラグが大きく、実用上で一度ストップしてしまった研究だ。
しかしここ数年、音声認識の精度と処理速度が上がり、リアルタイムで音声を利用することができるようになってきた為、また研究を再開した。
現在は曖昧な表現で移動ロボットを制御するだけではなく、「もっと強く」、「少し弱く」というコミュニケーションをとりながらマッサージを行うロボットハンドへの応用を目指している。

画像処理から人間とロボットへ

梶川氏はもともとロボット関係ではなく、画像処理で学位を取っている。
大学時代の所属していた研究室は様々なことを行っており、画像処理の他にロボット開発、人間工学、制御工学と幅広い分野を扱っていた。
その中で梶川氏が選んだ研究は画像処理だった。
研究のテーマは単眼画像を使用し、移動する物体の3次元位置をリアルタイムで計測をするというものだ。
当初、この研究結果はロボットハンドによる移動体の捕捉制御に使えると考えていたが、さらに人にサービスを行うロボットの制御にも有効ではないかと梶川氏はひらめく。
ロボットが人に物を手渡しする際に、人が差し出している手の位置をロボットが瞬時に判断ができれば、受け渡しができるのではないかと考えた。
当時、研究室内では、ロボットの動きに対する恐怖や驚きといった人の感情に関する研究も行われており、人の動きをリアルタイムで把握し、それに合せてロボットが人のような行動すれば、安心して安全に人とロボットが作業することが実現できるのではと梶川氏は考えた。

当時はロボットを使わずに人間同士の手渡し動作の解析を行い、それを基に構築した軌道生成アルゴリズムを3リンクロボットモデルに組み込んで、シミュレーションで有効性を確認するという内容だった。また、これと並行して画像による人の動作計測から、その心理状態を推定するといった研究にも取り組んでいた。

さらに、画像処理研究の延長としてアプリケーションを考えた時、研究室で行われていた人間の動作解析やロボット制御に刺激を受け、梶川氏が現在行っている研究に取り込めないかと考えた結果だった。

梶川氏は画像処理から始め、人間工学とロボット工学に興味を持ち、画像・ロボット・人の三位一体という形で今まで進んできた。

ロボットに携われると感じた瞬間

大学院卒業後、宮城工業高等専門学校、現仙台高等専門学校(以下:仙台高専)に就職し、ロボコン部の顧問となって、学生と共にロボットを本格的に製作する。
学生が様々なアイデアを出している様を見て、梶川氏はアイデアの多さや学生のロボット製作に対する熱い想いに刺激を受けた。
それまでロボット製作とは関わってこなかった自分が、学生とともにロボット作りのノウハウを学び、その難しさと面白さを知ることとなる。その後のロボット研究・開発に生かせる貴重な経験となった。ロボット開発に携われると感じた瞬間でもあった。

仙台高専に5年勤務し、その後秋田の県立大へ転職。
秋田県立大は新しくできたばかりの大学であったため、講義や部活などの学生指導等もまだ少なく、比較的時間が取れる状況であった。
仕事を終わらせた合間の時間に、今後は何をしようかと漠然と考えていた時、人と触れ合うことのできるロボットを作ってみたいという考えが頭に浮かんだ。
そのアイデアは、ロボットハンド製作へと繋がっていく。
しかし、ロボットと人と直接触れ合う場合、ロボットが硬い構造のままでは人に不安や恐怖、更には危険を与えかねない。
そこで時に硬く、時に軟らかくといった人の手指のしなやかさを再現することを目指し、硬さを調節できる関節機構の実現を考えた。
軟らかさを実現するために、関節駆動モータとリンクの間にゴムやスポンジなどの弾性材料を挿入することを思いついたが、それをどのようにして硬くするかが課題だった。
梶川氏はその課題を解決するために、ホームセンターへ通い、様々な硬さや形状のゴム、スポンジなどを見て回り、それらを使用して試行錯誤を繰り返す。
結果として、空洞を有するゴム製クッションを関節内部に挿入し、空気を出し入れすることで、すなわち関節の硬さを制御する方法を発案した。
現在の東北学院大学に着任後、シリコーンゴム製の薄型クッションの自作から始め、関節機構を形にした。また、梶川氏が関節機構を組み込んだロボットハンドや腕関節機構も開発した。

ロボットが目指す一つの目標は人と同様の能力の獲得である。しかし、人の優れた身体機能を模倣しようとした場合、性能面だけでなくサイズや重量の抑制にも困難さを伴う。
梶川氏はロボットハンドの製作においても同様の問題に直面した。
しかし小型・高出力のアクチュエータ技術や軽量・高強度の機械要素などの出現により、解決のハードルは下がりつつある。
単機能に特化したロボットや技術、そして単機能にすることでサイズや重量の問題も解消された。シンプルが故に使い方もわかりやすく、活用できる場面が非常に多くある。
そのため梶川氏はヒューマンアシストロボット技術は、望まれるのではないかと考えた。
こうした視点から、車椅子からの立ち上がりを支援する装置や自動的に長さが調整される歩行を支援する杖など、ロボット技術を取り入れた簡易なアシスト機器の開発も行っている。

このように梶川氏は、使い方がわかりやすく、人がアシストできるロボット研究およびその技術活用に取り組んでいる。

楽しみながら機械のアシストを受ける

東北学院大学に勤務して今年で14年。ロボットに携わり、本格的に研究を始めたのは東北学院大学に来てからだ。
梶川氏は介護福祉関係や人に関わるロボットの研究を行っているが、ロボットが単に人間の機能をアシストするだけでなく、人間の能力を引き出し、活かしてくれるようなアシストロボットの実現を目標としている。
例を出せば、現在話題になっている自動運転。
車が全自動になれば、利便性はあるが反対に車を運転する楽しみがなくなってしまうのではないだろうかと梶川氏は感じている。
人間が楽しいと感じられる運転機能を残してロボットのアシストを受けた方がいいのではないだろうか。
全てを機械に任せるのではなく、人間のアシストを行う技術であれば娯楽を奪われることも無いだろう。
この考えを胸に梶川氏は研究を進め、人を楽しませながら機械のアシストを受けられる社会を目指していると語ってくれた。

梶川研究室ロゴ

そして、研究室のロゴでもある、人間の手の研究も深めていきたいそうだ。
梶川氏は手というのは人間の優れた部分であり、象徴でもあると感じている。
五本指で物をつかむ、文字を書く、力を入れるといった様々なことは、ロボットで実現しようとすると高度な技術が必要だ。
人間の手には梶川氏の興味が多く詰め込まれており、マッサージ用ロボットハンドも手を解明する為の研究でもある。
ロゴは「H」がヒューマン、「M」がマシンを意味しており、それらを繋いでいる横に倒れた「S」がシステム、&(アンド)、無限大を表している。
HとMをSで繋ぎ、ロボットと人間の手が握手している様子を描き、ヒューマンマシンシステムと読む。
梶川氏の目指している人とロボットが協力して作業するロボットを作り出すという想いがこのロゴに込められている。

目的を見失わず、目的目標を明確に~メッセージ~

梶川氏からこれからロボットを作りたい、関わっていきたいという方々へメッセージを頂いた。
最近は学ぶために簡略化、キット化されている物が多い。
しかし、手軽さゆえに、仕組みを完全に理解できないまま完成したという満足感と、結果が得られてしまう。
ロボットは機械、電気、ソフトの三つで構成されていると梶川氏は語っており、一つでも疎かにしてしまうとロボットは動かない。
ロボットの中にどういう機構が入っていて、どう動いているのか、回路はどんなものか、そういった部分にも興味をもち、掘り下げて学習してほしいそうだ。
梶川氏が大学時代行っていた画像処理の研究も綺麗な領域かと思えば、苦難が多い世界であり、見ることと実行することはかなり違う。
工学の分野は綺麗な部分もあれば、泥臭い部分も多くあるので、そういったところには目を背けず、挑んでほしいという。
そのためには、何を作りたいか、目標と夢をしっかり持って研究に取り組んでほしいと語る。

梶川研究室:http://www.ipc.tohoku-gakuin.ac.jp/kaji-lab/