プロフィール
■石橋 靖嗣(いしばし やすつぐ)
TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部 戦略技術センター シニアエキスパート
■松井 暢之(まつい のぶゆき)
TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部 戦略技術センター エキスパート
《左が石橋氏 右が松井氏》
ロボットたちが協力して働くためのシステム
今から数十年後の未来、労働の現場はどのように変化しているだろう。
未来の労働現場と聞いて、ロボットたちが人間の仕事を肩代わりし、スムーズに働く光景を思い浮かべる人もいるのではないだろうか。
一昔前はSF世界の想像に過ぎなかったこんな光景を実現させるべく、努力を続ける研究者たちがいる。
今回は、ロボットたちが連携して人間の仕事の代替を支援するためのロボット統合管理システム、“RoboticBase”の企画にかかわる石橋氏と、開発チームの松井氏にお話を伺った。
石橋氏「我々は、ロボットの行動を統合管理するシステム、RoboticBaseの研究開発を行っています。
RoboticBaseは、今までバラバラに働いていたロボットたちを統合し、連携して複雑な仕事を行わせることを目的としています。
現在は、このRoboticBaseを使って、ロボットたちが配送業務などを連携して行う技術に取り組んでいます。
昨年、会津大学と共同で行った実証実験では、複数の自律移動配送ロボットをRoboticBaseと連携させて、同じフロア内で注文品の集荷・配送・納品の仕事を行わせるという内容の実験を行いました。
実験が行われるフロアには、商品の注文主のいる会議室、ロボットたちの待機場所、商品が置かれた倉庫があります。
RoboticBaseと連携させることで、ロボットたちはこれらの場所を適切に行き来し、注文された商品をスムーズに届けることができるようになります。
■実証実験の環境
■実証実験の作業フロー
① 会議室にいる注文主がスマートフォンから商品の出荷指示を出す
② 情報を受け取った注文システムとRoboticBaseが連携し、待機しているロボットに商品を取りに倉庫へ向かうよう指示
③ 指示を受けたロボットは、RoboticBaseの指定する経路設計に従いながら倉庫へ移動
④ 倉庫で集荷作業を行う
⑤ RoboticBaseの指定する経路設計に従いながら、配達先である会議室へ移動
⑥ 注文主がロボットから商品を受領
⑦ ロボットが待機場所まで自動的に帰還して完了
以上の作業を、同じフロアの中で複数台のロボットが同時に行っています。
この作業を、ロボットが個別の状況判断のもと行うと、移動中のロボット同士が鉢合わせしてしまうという問題が起こります。
広い場所なら余裕をもってすれ違うことが可能ですが、狭い通路でロボット同士が鉢合わせてしまうと、立ち往生してしまったり、最悪の場合衝突してしまう危険性もあります。
RoboticBaseはこの問題を解決するために、すべてのロボットの移動ルートを管理しています。
各ロボットをRoboticBaseと連携させれば、システム側ではすべてのロボットの位置を把握することができ、その情報を基に、ロボット同士が通路で鉢合わせないよう、適切な移動ルートを指示することができます。
RoboticBaseと監視カメラ等を連携させれば、人込みを避けるルートを指示することも可能になります。
また、この実証実験は屋内で行いましたが、屋外でこのロボットによる配送システムを使う場合、天気の情報や信号機の情報と連携させることも考えています。
ロボット自身が知りえない情報をRoboticBaseが収集し、ロボットたちの動きを最適に制御するというのが、RoboticBaseの役割です。」
ロボットがちゃんと『使われる』ためには
1台で様々なことができる高機能なロボットを造るのではなく、複数のロボットを連携させて複雑な仕事をさせる。
そんな新たな視点で、RoboticBaseを開発することとなった背景についてお聞きした。
松井氏「RoboticBaseの研究開発を始めた理由は2つあります。
一つは、様々なロボットが使われないままになっている現状を変えるためです。
現在、日本は高齢化・少子化による労働力の減少が深刻になっています。
《閑散とした街を歩く高齢者の様子》
出典:PAKUTASO
それを受け、新たな労働力となるため様々なロボットが開発されましたが、今も現場で活躍できているものはほんの一握りです。
人目を引く接客ロボットが開発されても、ブームが過ぎると使われなくなってしまう。
それは、やはりそのロボットを上手く業務の中に組み込めていないことが原因だと考えられます。
ですが、現在の日本には、ロボットを開発するメーカーは数多くあっても、それらを上手くまとめ上げて仕事をさせようという企業はないんです。
工場の中など、閉じた環境で働くロボットをまとめるシステムはたくさんありますが、オープンな環境で働くロボットをまとめるシステムは今までありませんでした。
しかし、ロボットを新たな労働力としてきちんと機能させるには、ロボットたちが連携できる体制を作る必要があると考え、RoboticBaseの研究開発に着手しました。
もう一つの理由は、ロボットたちを人々の生活するオープンな環境で働かせるためです。
1台で何でもできるロボットは、どうしても高価になってしまいます。
工場内で使うロボットなら、基本的には定位置から動かさず、扱い方を心得た人しか使いませんから、それでもいいかもしれません。
ですが、ロボットを人間の代わりとして、人間の生活圏で仕事をさせるとしたらどうでしょう。
そんな高価なロボットなら故障させたら一大事ですし、使う側は気疲れしてしまいます。
それならば、安価で替えが効く、壊れたら家電のように買い換えられる単機能なロボットを組み合わせて仕事をさせる方が良いのではないか。
それこそが、人間の生活の中で働くロボットのあるべき姿なのではないかと考えたことも、きっかけの一つです。」
ロボットの『標準』をつくりたい
ロボットが新たな労働力として、人間の社会の中で働く未来を目指し研究開発を行うお二人。
そんな未来を実現させるために、今後取り組んでいきたいことについて、お話を伺った。
松井氏「現在は、様々なメーカーの既存ロボットをRoboticBaseと連携させて動かすことを目標に、研究開発を進めています。
しかし、ロボットとRoboticBaseがやり取りするデータのフォーマットや、ロボットのプログラムの仕様はメーカーによってバラバラなうえ、既存のロボットは外部からの指令を受け付けないものがほとんどです。
RoboticBaseと接続する際どんなデータをやり取りするのか、RoboticBaseから命令を出すとどんな動きをするのか。そういったものの「標準」というものが世の中にはまだ一つもないんです。
ロボットメーカーは、それぞれが考えた最善の形でロボットを造っているのですが、メーカーごとにRoboticBaseを調整していては、連携はなかなか進みません。
逆に、「標準」が規定され、最低限それに合わせたロボットをメーカーに造ってもらえるようになれば、RoboticBaseとの連携がとても容易になり、様々なタイプのロボットが連携して働けるようになります。
《異なる種類のロボットが連携して受付業務をこなす様子》
また、ロボットの運用にRoboticBaseのようなシステムが使われることが普通になれば、ロボットメーカーはシステム面の開発に必要以上のコストをかける必要がなくなるというメリットがあります。
そうすれば、メーカーはもっと、ロボットの動作面での高精度化や、機能面の充実にお金をかけることができるようになるのではないかと考えています。
そのため、我々の今後の目標は、ロボットとロボット統合管理システム間でやり取りの「標準」を作ることです。
これを実現させるため、現在はロボットメーカーや我々のようなシステム会社に声をかけ、この考えを共有しています。
少しずつこの輪を広げていき、標準化を実現させたいですね。」
様々な分野に興味をもって、積極的に協力しよう
これから、ロボット関連の研究開発を志す人へ、お二人からメッセージをいただいた。
石橋氏「視野を広く持つことが大事です。
現在は、クラウドやAIなど様々な新しい技術がたくさん出てきています。
ロボット研究を専門にするのだとしても、それらの技術については興味をもって情報収集していくべきです。
ロボット研究を進めるうえでも、最新技術を学ぶことで、それらを使ってより賢く、スピーディーにロボット開発が進められるかもしれません。
専門外のことを学ぶのは大変かと思いますが、視野を広く持って勉強することが良い発見につながります。
松井氏「専門外の分野のことも勉強してみるというのは、私も大事だと思います。
例えば、ロボットの知識とクラウドの知識、両方が必要なプロジェクトがあったとします。
そんな時、それぞれの分野にだけ詳しい人が集まっても、お互いがお互いのやっていることを理解できず、仕事はうまく進まないでしょう。
逆に、概要だけでも勉強をしておけば、相手がどんなことができるのか、何をしようとしているのか、なんとなくでも理解できるようになります。
そうすれば、お互いに相談することが可能になり、仕事もうまく進むでしょう。
他人と協力して仕事をするためにも、専門外のことにも興味を持つ心がけは大事にしてほしいです。」
TIS株式会社:https://www.tis.co.jp/
TISインテックグループの TIS は、SI・受託開発に加え、データセンターやクラウドなどサービス型の ITソリューションを行う会社。
中国・ASEAN 地域を中心としたグローバルサポート体制も整え、金融、製造、流通/サービス、公共、通信などの業界で事業を展開している。
RoboticBase のソースコード(GitHub):https://github.com/RoboticBase